プールからやっとの思いであがったあと、競争で負けまくった私のおごりでロビーで売られているソフトクリームを食べ、解散することになった。
だけどバスがまだ到着しそうにないので、しばらく待たなければならないようだ。
「私建物の外で待ってるから、あかりは中で待っててよ。バス来たら電話する!」
「ありがとう凜」
凜からの申し出をありがたく受けさせてもらったので、凜はプールをでてすぐのバス停へと向かって行った。
「瀬名くんは?何で来たの?」
「俺は自転車。ここから家まで自転車で30分くらいかな」
「そっか・・・、この暑さで自転車はすごいね・・・・」
話しながらちらっと瀬名くんの方を見る。
湿った髪から小さなしずくがたれ、首筋につぅっと伝っていく。
長時間泳いだ後だからか、若干頬が赤らんでいる。
(今、血飲みたいって言ったら困るかな・・・・、でも今お願いしないともうチャンスはないよね・・・・)
心の中で葛藤していると、瀬名くんがのぞきこんできた。
「・・・・あれやる?」
「!」
私は思わず勢いよく二、三回うなずいた。
「あははっ、めっちゃ期待してくれてる」
瀬名くんはなぜかうれしげにそう言った。
「っていってもここもいつ人来るかわかんないしな・・・」
「・・・・・こっち」
私はロビーの端の方に瀬名くんを引っ張っていく。
ロビーから非常階段へ続く廊下に行くと、予想通り誰もいなかった。
ロビーからは見えないから、ロビーに人が来ても大丈夫なはずだ。
「へー、こんなとこあったんだ」
「うん、更衣室に貼ってあった緊急避難経路の図見てて、ここならもしかしてって思ったの」
「俺そういう系全然気にしないからなぁ。あかりちゃんほんとちゃんとしてるねー」
「あ、いや・・・・これは別にそういうのじゃ・・・・」
「?」
思わず言葉に詰まってしまった私に、瀬名くんが不思議そうな顔をした。
「・・・・いや、あの・・・・、ほめてくれたけどほんとは全然ちゃんとしてないんだよね・・・・私も普段は全然気にしない人だから・・・・」
「あ、そうなんだ。じゃあ偶然気づいたのか。だったらめっちゃラッキーじゃん」
「・・・・えっと・・・、偶然・・・・でもなくて・・・・。その・・・・、ど、どうしても今日は吸血したかったから・・・・」
瀬名くんは私の言葉で、驚いて少し目を見開いた。
けどそのあといつも以上にうれしそうに笑った。
「あははっ、じゃあ人気のない場所を探すために避難経路図見てたんだ?そんなに吸血したかった?」
「し、したいよ・・・そりゃ・・・・」
瀬名くんは私の答えを聞いてくすっと笑うと、すでに開けてある一つ目のボタンの次、二つ目のボタンをはずす。
「急ごう。バスが来る前に終わらせきゃ」
「うん・・・」
私は久しぶりの吸血に、本能的に心が躍るのを感じる。
ドキドキしながら私より背が高い瀬名くんの肩に手を添える。
すると瀬名くんは私に合わせて軽くかがんでくれた。
いつも吸血するときは座っている瀬名くんに合わせて私がかがむけど、今日は逆。私の肩に、瀬名くんの柔らかい髪がかかって少しくすぐったい。
「・・・・吸っていい?」
「うん」
耳元で瀬名くんの声がする。
私ははやる気持ちを抑えながら丁寧に牙を差し込む。
そして牙の下から流れ込んでくる久しぶりの甘露に、心がたかぶった。
数口飲み込むと、一滴たりともこぼすまいと思いながらきれいにその傷をなめて治す。
「・・・・終わったよ瀬名くん、ありがとう」
「ん」
瀬名くんから体を話そうとしたその瞬間、私のスマホが鳴り出す。
人が来ないか身構えていたので思わずびくっと肩をゆらしてしまった。
「あはは、めっちゃびくってしたね」
「そりゃびっくりするよ・・・!とにかくバス来たみたいだからもう行くね」
「うん。じゃあね、また夏休み明け」
私は瀬名くんに軽く手を振ると、大急ぎでバス停まで走りだす。
残された瀬名くん。
瀬名くんはひとり、自分の首筋に手を当てた。
さっき、私が咬んだであろう箇所に、そっと指をはわせる。
そして一瞬何か物思いにふけったあと、何事もなかったかのように帰路につくのだった。
だけどバスがまだ到着しそうにないので、しばらく待たなければならないようだ。
「私建物の外で待ってるから、あかりは中で待っててよ。バス来たら電話する!」
「ありがとう凜」
凜からの申し出をありがたく受けさせてもらったので、凜はプールをでてすぐのバス停へと向かって行った。
「瀬名くんは?何で来たの?」
「俺は自転車。ここから家まで自転車で30分くらいかな」
「そっか・・・、この暑さで自転車はすごいね・・・・」
話しながらちらっと瀬名くんの方を見る。
湿った髪から小さなしずくがたれ、首筋につぅっと伝っていく。
長時間泳いだ後だからか、若干頬が赤らんでいる。
(今、血飲みたいって言ったら困るかな・・・・、でも今お願いしないともうチャンスはないよね・・・・)
心の中で葛藤していると、瀬名くんがのぞきこんできた。
「・・・・あれやる?」
「!」
私は思わず勢いよく二、三回うなずいた。
「あははっ、めっちゃ期待してくれてる」
瀬名くんはなぜかうれしげにそう言った。
「っていってもここもいつ人来るかわかんないしな・・・」
「・・・・・こっち」
私はロビーの端の方に瀬名くんを引っ張っていく。
ロビーから非常階段へ続く廊下に行くと、予想通り誰もいなかった。
ロビーからは見えないから、ロビーに人が来ても大丈夫なはずだ。
「へー、こんなとこあったんだ」
「うん、更衣室に貼ってあった緊急避難経路の図見てて、ここならもしかしてって思ったの」
「俺そういう系全然気にしないからなぁ。あかりちゃんほんとちゃんとしてるねー」
「あ、いや・・・・これは別にそういうのじゃ・・・・」
「?」
思わず言葉に詰まってしまった私に、瀬名くんが不思議そうな顔をした。
「・・・・いや、あの・・・・、ほめてくれたけどほんとは全然ちゃんとしてないんだよね・・・・私も普段は全然気にしない人だから・・・・」
「あ、そうなんだ。じゃあ偶然気づいたのか。だったらめっちゃラッキーじゃん」
「・・・・えっと・・・、偶然・・・・でもなくて・・・・。その・・・・、ど、どうしても今日は吸血したかったから・・・・」
瀬名くんは私の言葉で、驚いて少し目を見開いた。
けどそのあといつも以上にうれしそうに笑った。
「あははっ、じゃあ人気のない場所を探すために避難経路図見てたんだ?そんなに吸血したかった?」
「し、したいよ・・・そりゃ・・・・」
瀬名くんは私の答えを聞いてくすっと笑うと、すでに開けてある一つ目のボタンの次、二つ目のボタンをはずす。
「急ごう。バスが来る前に終わらせきゃ」
「うん・・・」
私は久しぶりの吸血に、本能的に心が躍るのを感じる。
ドキドキしながら私より背が高い瀬名くんの肩に手を添える。
すると瀬名くんは私に合わせて軽くかがんでくれた。
いつも吸血するときは座っている瀬名くんに合わせて私がかがむけど、今日は逆。私の肩に、瀬名くんの柔らかい髪がかかって少しくすぐったい。
「・・・・吸っていい?」
「うん」
耳元で瀬名くんの声がする。
私ははやる気持ちを抑えながら丁寧に牙を差し込む。
そして牙の下から流れ込んでくる久しぶりの甘露に、心がたかぶった。
数口飲み込むと、一滴たりともこぼすまいと思いながらきれいにその傷をなめて治す。
「・・・・終わったよ瀬名くん、ありがとう」
「ん」
瀬名くんから体を話そうとしたその瞬間、私のスマホが鳴り出す。
人が来ないか身構えていたので思わずびくっと肩をゆらしてしまった。
「あはは、めっちゃびくってしたね」
「そりゃびっくりするよ・・・!とにかくバス来たみたいだからもう行くね」
「うん。じゃあね、また夏休み明け」
私は瀬名くんに軽く手を振ると、大急ぎでバス停まで走りだす。
残された瀬名くん。
瀬名くんはひとり、自分の首筋に手を当てた。
さっき、私が咬んだであろう箇所に、そっと指をはわせる。
そして一瞬何か物思いにふけったあと、何事もなかったかのように帰路につくのだった。