数日がたち、ついに夏祭りがやってきた。

 まだ日が沈まない内から凜の家族がうちの家にやってきて、凜と私と海くんは順に着つけてもらう。
 凜と私は着つけが終わったあとも、お互いヘアアレンジをしながら日が沈むのを今か今かと待ちわびていた。


「よし!できたよ、こんな感じでどう?あかり」

「ありがと、凜」


 小さいころから浴衣のたびに愛用しているかんざしをさして私はセット完了。

 今度は私が凜の髪をセットしてあげる番。


「この動画のやつやってほしい!」

「まかせて」


 凜の髪を編み込んでいると、着付けが終わった海くんがリビングに降りてきた。


「・・・・っ!」


 ヘアセットに苦戦する私と目が合って、一瞬虚を突かれる海くん。


「あ、海くん!私の見える位置でしばらくスマホもっててほしい・・・!」

「あ、うっす・・・!」


 言われた通り海くんがそそくさとスマホを掲げてくれる。

 そのおかげもあって、苦戦しながらもどうにかヘアセットを完成させる。
 小花のミニピンをいくつかつければ凜もセット完了。


「そろそろ暗くなったかな」

「なってる!出れる!!」


 私と凜たちの親も集まり、三列ある車に乗り込む。
 どこかが三人で一列になるので、私と凜と海くんが並ぶのは毎年恒例だ。


「さー!しゅっぱーつ!!」

「ふふ、凜まだついてないのにはしゃぎすぎだよ、もう」

「だって楽しみだもん!夏祭り経験しないと夏始まらないよね!」

「その気持ち、なんかわかるなぁ」


 夏祭りの会場はもう目の前。

 私たちの夏も、もう目の前。


 そうこうしている間に会場が見えてきた。
 会場は熱気であふれかえっていて、毎年のようにかいだ屋台の匂いが鼻をくすぐる。


(ああ・・・・!夏だ・・・・!)


 日差しは強いし、めちゃくちゃ暑いけど。
 夏って響きは、大好きだ。

 例年通り、花火の席取りに向かう両親たちと別れ、私と凜と海くんは屋台に向かう。


「何食べる!?」

「とりあえずまずはごはん系だよね」

「ポテト!やきそば!からあげ!フランクフルト!」

「はいはい。まずは落ち着いて」


 毎年はしゃぐ凜を私と海くんでなだめながら屋台をめぐるのも恒例。

 凜は楽しいって気持ちを、いつもまっすぐに表現してくれる。
 だから私も、凜といるとまっすぐでいられて、楽しい。


「海くんは行きたいのある?」

「・・・・なんでも」

「射的は?毎年やりたいって言ってたじゃん。もし行くなら私もついていくよ」

「・・・い、いつのこと言ってんですか。去年とかはやってないですから・・・!さすがにもう子供じゃないし・・・」

「あ、去年はそうだったっけ?ごめんごめん」

「と、とりあえず姉ちゃんの回りたいとこでいいです・・・。姉ちゃんの優先しないと花火間に合わなくなるし・・・・」


 凜が食べたいものを全部人数分買うととんでもない量になるので、そこは考えどころだ。


「ポテトはふたつくらい味買ってシェアして・・・、フランクフルトは欲しがってるのが凜だけだから一本でいいし・・・、やきそばはシェアするのは無理かなー・・・」

「次!からあげ行こ!!」

「ちょっ!凜!早いってば―!!」

「あっ、ごめんごめん!」


 凜は早いのに海くんは意外とゆっくりだから本当に気が気じゃない。


「凜、ほんとはぐれないでよね」

「聞き捨てならないぞー!私がはぐれそうなんじゃなくて、あかりと海がはぐれそうなのー」

「普通2:1だったら1がはぐれてることになるんだよ凜・・・・」


 そういうどうでもいい話をしているうちに、目当てのごはんがそろう。


「次はデザート系ね!私はりんご飴とチョコバナナと―――――」

「もー、一回落ち着いて!いっぱい買っちゃったし一旦座って食べよ」

「それもそうだね!座ろ!!」


 言うが早いかまたずんずん座る場所を探して歩きだす凜。


「もー!早いってばー!」

「わ~!ごめん~!!」


 けらけら笑う凜に追いついて、どうにか座れそうなところを探す。

 どこもかしこも埋まっていたが、運よく立ち上がった人と入れ代わりで座ることができた。


「ふーっ、結構歩いたねー・・・・」


 一息をつく私とは裏腹に、凜はさっそく食べ物を堪能している。
 海くんも疲れを見せることなくやきそばをほおばっている。


「ふたりとも体力あるなー・・・」


 私は外の体育は休まざるを得ないので、他の子より運動量は少なく、また猛暑の中体を動かすこともない。だからあまり体力には自信がないのだ。


「あはひもはへて」

「凜、口にものがあるときはしゃべらないの」


 たぶん「あかりも食べて」って言いたかったんだろうということはなんとなく察した。

 私もポテトを一本つまんで口に放り込む。


「ん、おいしい」

「ね!」


 毎年恒例の品々だけど、いつ食べても本当にびっくりするくらいおいしい。
 夏祭りって魔法が、こんなに幸せなおいしさにさせているのかもしれない。


(・・・・けど、よく考えるとあと凜と海くんと来られるのはあと数えるほどかもしれない)


 今私は高校一年生。
 まだ進路は未定だけど、高校を卒業後にいっしょに夏祭りに来れるとは限らない。

 なんなら、凜も海くんもそれぞれの人間関係がある。
 来年にだって、もしかしたら一緒に参加できなくなるかもしれない。


「・・・・今年も、いっしょに来れてよかった。ありがとう、凜、海くん」


 二人に向けてそうつぶやいたら、二人とも少しびっくりしたような顔をした。
 急にこんなこと言えば、誰だってそんな反応になるかもしれないけど。

 凜と海くんは少し顔を見合わせてから、私に向きなおる。


「あかり、三人とも来たくて来てるんだからお礼なんていらない」

「そうですよ・・・!俺なんてあかりさんいなくて姉ちゃんだけだったら絶対来てないですから!俺が来たいって思ったから来たんです!」

「一言余計だよこの愚弟め・・・・、あたしだってあんただけなら絶対の絶対に来てないしー!!」

「俺だって絶対の絶対の絶対に――――――」


 また始まった。
 まあ、こういうのもこのメンバーならではってことだ。

 いつかきっと、思い出になる。

 来年も、再来年も、どうなるかなんてわからないけれど。
 私の夏祭りの予定表は、二人のために空けておこう。


「あっ!ていうかやばいよあかり!そんな感動的なこと言ってる場合じゃない!!」

「え、なんで?」

「もうあと30分で花火始まっちゃう!!このままじゃのんびり甘いものを食べながら花火を見る計画が・・・・!!」

「ええ!?もうそんな時間!?」


 おしゃべりしながら屋台をめぐっている間に、結構時間がたってしまったらしい。
 慌てる私たちを、海くんが落ち着ける。


「落ち着けよ姉ちゃん。・・・・と、あかりさん・・・・。とりあえず姉ちゃんはあと何が食べたいんだっけ?」

「りんご飴とチョコバナナとかき氷と、あ、あとごはん系だけど焼き鳥買い忘れてたからそれと、あと大判焼きとわたあめ」

「多すぎだろ・・・。最低限ほしいのだけ言ってくれよ」

「これですでに最低限・・・」

「・・・・・」


 海くんがあきれたような目で凜を見る。

 とはいえそれら全てをまわるにはこうしてはいられない。
 とりあえず三手に分かれ、両親たちが構えた花火の席で落ち合うことになった。


「じゃあみんな!絶対花火に間に合わせるぞー!」


 凜の言葉でそれぞれ三手に分かれた。
 私はまず両親たちに今手持ちの大量の食べ物を一旦預け、花火席付近にあるわたあめとかき氷を買う予定。

 両親たちと連絡を取りながら席の場所を探すが、人が多すぎてなかなか見つからない。

 なんとか見つけ届け終わったころには15分が経過していた。
 残り15分くらいで花火が始まってしまう。


(急がなきゃ・・・・ていうか花火の席で落ち合う予定だけど、凜と海くんは席見つけれるかな・・・?)


 不安に思いながらもわたあめの屋台に並ぶ。


(さっきよりは屋台空いてきたかな・・・?かき氷があのくらいの列のままならぎりぎり間に合いそう・・・かも・・・・)


 待ち時間すら惜しくて前もって小銭を用意するため、財布を開けた。

 しかし開けた拍子に百円玉が転がり落ちる。


「あっ・・・・!」


 転がっていったが、幸い前の人の靴に当たって止まった。


「よかっ――――――ってえ!?」


 私の声で前の人が振り向く。

 私の前には、なんと瀬名くんが並んでいたのだった。