今日は終業式。夏休み前最後の登校だ。


「明日から夏休みーーー!!早く終われ今日ーーー!!」

「凜、朝からテンション高すぎ」


 珍しくやる気満々で早めに家を出た凜といっしょに登校している。


「だって明日から夏休みだよ?日本中の学生が一年で一番浮足立つ日でしょ」

「そう、なのかなぁ」


 テンション高めな凜と他愛ない会話をしながら歩く。


「明日浴衣買いに行くの忘れないでね!あかり!」

「さすがに忘れないって。明日の十時に二人が私の家に迎えに来るんだったよね?」

「うん!海のためにめいっぱいおしゃれしてきてね!」

「お、おしゃれかー・・・、何着ていこう」


 そこでふと前を行く集団のうち一人の女の子のカバンから、ストラップがぽろっととれた。

 思わず拾ったので、前の子に声をかける。


「あ、あの、落としましたよ・・・・」

「え?」


 振り返った女の子。そしてそれにつられて前の集団の他の人も振り返る。


「あ、ありがとうございます!」


 見たことがない女の子だったので、他の学年の人かな、と考えているところに声がかかった。


「あかりちゃんじゃん、おはよ」

「え、あ!瀬名くん・・・!おはよ・・・・」


 前の集団のうちの一人が瀬名くんだったらしい。


「あかりちゃん、明日から夏休みだけど楽しみ?」

「え?あ、えっと・・・まあ・・・」

「課題の量やばいよね。あ、でもあかりちゃんは課題早めに終わらせてそうなイメージ」

「ま、まあそれなりには・・・・」

「すご。俺最後の最後まで溜めるタイプ。なんならたまに間に合わないくらい」


 人前ではあまり関わりたくないって言ったのに話しかけてくるなんて。
 そう思ってちょっとだけにらんでみせた。

 でもお得意のいたずらっ子みたいな笑顔をされたので、たぶんわざと話しかけているんだろう。
 自然な流れで話しかけてるからセーフ、とか思ってるのかもしれない。

 もう一回にらむと、さすがの瀬名くんも笑いながら小さくうなずいて離れていった。
 またあとで、って口パクを残して。


(あとでって・・・・教室でも余計な話は振っちゃダメだからね・・・!?)


 心でそうつっこむけど、当然瀬名くんには聞こえるはずはなく。


 でもそんな心配とは裏腹に、教室で会った瀬名くんは何も話しかけてくることはなかった。