瀬名くんを遊びに誘ったその日、凜と朝会った瞬間にそのことを報告した。
先週はずっと早く誘えと凜から催促され続けていたので、ようやくといった感じだ。
「にしてもどこがいいかなー・・・瀬名くんは希望言ってた?」
「一応私と凜が行きたいとこあれば優先するよってさ」
「そっかー、あ、休み入ってすぐの夏祭りは?」
この近くで毎年開催される夏祭り。
私と凜は家族ぐるみで仲がよく、毎年私の家族と凜の家族で参加している。
吸血鬼は夜行性なので、私の家族はみんな日が落ちてからの方が元気。
だからこそ、お祭りは私たちにとっては一番の楽しみ。
「三人で行けたら楽しそうだけど、瀬名くんは他の子ともう予定あったりして・・・・」
夏祭りはたいていの学生が参加するので、瀬名くんはたぶん、というか絶対他の誰かにもう誘われているはずだ。しかも女の子に。
「そうだよねー、瀬名くんモテるからなー・・・。じゃあ夏祭りは今年も家族総出で行くか」
「海くんは友達とか彼女と参加しないの?」
海くんって言うのは凜の弟のこと。
確か今中学二年生くらいだったから、そろそろ家族との夏祭りを嫌がっても不思議じゃない。
「あ、まず海に彼女はいないから!!あと最近は家族と出かけるのめんどくさがるんだけどさ、夏祭りはあかりに久しぶりに会いたいから来ると思う」
「全然会えてないもんね、私も会えるの楽しみだなぁ」
「海のためにも浴衣着てあげてね、あかり」
海くんのためって言うのはよくわからないけど、浴衣は夏祭りでしか着る機会がないから絶対に着たい。
今手持ちの浴衣は凛とおそろいで買ったやつ。去年もふたりで揃いで着た。
「でもあの浴衣そろそろ古くなってきたかなー、サイズもぎりぎりだし」
「そうかも。新しいの買いに行く?」
「いいね!」
凜はわくわく顔で、夏休み入った瞬間に行こうと息巻いている。
とはいえ毎年行く夏祭りは夏休み入って間もなく開催されるので、凜の言う通り買いに行くなら早めがいい。
そこでふと私は思い付きで発言する。
「あ、じゃあ瀬名くんとの約束、ショッピングにしたらどうかな。そしたらそこで浴衣も買えるし」
だけどよく考えるといっしょに夏祭りに行くわけじゃない瀬名くんを浴衣選びに付き合わせるのは変だった。
瀬名くんは誘えばむしろ私たちより率先して浴衣を選びそうだけど、せっかく瀬名くんと遊ぶなら三人とも同じくらい楽しめるものがいい。
そのことを思って慌てて先ほどの発言を取り下げる。
すると凜は、あ、と何かに思い至ったような表情をした。
「じゃあさ、いっしょに夏祭り行く人なら誘っていい?」
「え?凜の家族ってこと?」
「そう、っていうか海」
話を聞くと、海くんも今年は浴衣を着るか迷っていたらしいのでついでにとのことだった。
「もちろん海くんも大歓迎だよ」
「おっけー、伝えとくね」
いつ買いに行こう、と話しているところで、教室に友達と話しながら瀬名くんが入ってくる。
そこでようやく二人とも瀬名くんの約束をどうするか話し合っていたことに思い当たった。
「どうする?瀬名くんとの約束。凜は行きたいとこある?」
「うーん、やっぱ夏らしいことしたいよね。遠めだからあかりのこと考えるとバスで行くことになるけどさ、隣町のプールとかどう?あれなら室内だし」
「楽しそう・・・!」
「でも瀬名くんってモテるからプールとか海なんて100回は行ってそうだよね」
「う、そう言われるとそんな気もする・・・・」
それを言うとたいていのことは100回くらい誘われてそうだ。
ただ瀬名くんが凜と私を希望を却下する想像がつかないからいいよって言いそうだけど。
「瀬名くんにも確認してみる?・・・って言っても話しかけるタイミングないんだよねー・・・・」
「あ、私連絡先知ってるから送っとく」
時間があるときに読んでくれれば、と思ってスマホを開く。
(凜と三人で遊ぶ約束だけど、プールでもいい?・・・っと)
送信してから何気なく瀬名くんの方をみたら、ぱちっと目が合った。
思わず自分の手元にあるスマホを指さす。
(・・・・あ、別に今読まなくてもよかったんだった)
そう思いなおしたが、もう瀬名くんは自分のスマホに目を落としていた。そして私からのメッセージに目を通す。
視線をあげた瀬名くんは、私と視線を合わせて、口パクで何か短い言葉を言ってきた。
そして直後、『なんて言ったかわかった?』とスマホに送られてきた。
(・・・・もちろん、かな?)
物は試し、そう書いて送ってみると、花丸マークが帰ってきた。
「凜、もちろん、だってさ」
「そっか。じゃあ決まりだね。瀬名くんのが予定詰まってそうだから、日にちは瀬名くんに合わせよっか」
「それも送っとくね」
今度は友達との会話の邪魔にならないよう、時間を空けてから送り、送ったあとも瀬名くんの方は向かなかった。
けどまたすぐ返信が来た。
『あとで暇な日確認して伝えるね』
お願い、と送りかけたところにまたメッセージが入る。
『てかなんで今度はこっち向いてくんなかったの?』
『友達との会話の邪魔になるかと思って』
するとさみしそうな顔のスタンプが送られてきた。
仕方なく瀬名くんの方を向く。
瀬名くんは目が合うとわざとらしく泣いているようなジェスチャーを一瞬見せる。
私も小さく瀬名くんをなでるようなジェスチャーを返す。
お互い小さく笑ったあと、何事もなかったかのように視線をはずした。
「ね、あかり、今海に連絡送ったらすぐ返信来たんだけど!あいつの学校スマホ禁止なのにまじ―――――ん、あかりどうかした?」
「え?なんで?」
「いやなんか・・・・嬉しそうだったから」
「!・・・・ううん、なんでもないよ」
瀬名くんとの秘密だらけの不思議な友達関係。
それが案外楽しいってこと、ちょっと前の私に教えてあげたいって思ったんだ。
先週はずっと早く誘えと凜から催促され続けていたので、ようやくといった感じだ。
「にしてもどこがいいかなー・・・瀬名くんは希望言ってた?」
「一応私と凜が行きたいとこあれば優先するよってさ」
「そっかー、あ、休み入ってすぐの夏祭りは?」
この近くで毎年開催される夏祭り。
私と凜は家族ぐるみで仲がよく、毎年私の家族と凜の家族で参加している。
吸血鬼は夜行性なので、私の家族はみんな日が落ちてからの方が元気。
だからこそ、お祭りは私たちにとっては一番の楽しみ。
「三人で行けたら楽しそうだけど、瀬名くんは他の子ともう予定あったりして・・・・」
夏祭りはたいていの学生が参加するので、瀬名くんはたぶん、というか絶対他の誰かにもう誘われているはずだ。しかも女の子に。
「そうだよねー、瀬名くんモテるからなー・・・。じゃあ夏祭りは今年も家族総出で行くか」
「海くんは友達とか彼女と参加しないの?」
海くんって言うのは凜の弟のこと。
確か今中学二年生くらいだったから、そろそろ家族との夏祭りを嫌がっても不思議じゃない。
「あ、まず海に彼女はいないから!!あと最近は家族と出かけるのめんどくさがるんだけどさ、夏祭りはあかりに久しぶりに会いたいから来ると思う」
「全然会えてないもんね、私も会えるの楽しみだなぁ」
「海のためにも浴衣着てあげてね、あかり」
海くんのためって言うのはよくわからないけど、浴衣は夏祭りでしか着る機会がないから絶対に着たい。
今手持ちの浴衣は凛とおそろいで買ったやつ。去年もふたりで揃いで着た。
「でもあの浴衣そろそろ古くなってきたかなー、サイズもぎりぎりだし」
「そうかも。新しいの買いに行く?」
「いいね!」
凜はわくわく顔で、夏休み入った瞬間に行こうと息巻いている。
とはいえ毎年行く夏祭りは夏休み入って間もなく開催されるので、凜の言う通り買いに行くなら早めがいい。
そこでふと私は思い付きで発言する。
「あ、じゃあ瀬名くんとの約束、ショッピングにしたらどうかな。そしたらそこで浴衣も買えるし」
だけどよく考えるといっしょに夏祭りに行くわけじゃない瀬名くんを浴衣選びに付き合わせるのは変だった。
瀬名くんは誘えばむしろ私たちより率先して浴衣を選びそうだけど、せっかく瀬名くんと遊ぶなら三人とも同じくらい楽しめるものがいい。
そのことを思って慌てて先ほどの発言を取り下げる。
すると凜は、あ、と何かに思い至ったような表情をした。
「じゃあさ、いっしょに夏祭り行く人なら誘っていい?」
「え?凜の家族ってこと?」
「そう、っていうか海」
話を聞くと、海くんも今年は浴衣を着るか迷っていたらしいのでついでにとのことだった。
「もちろん海くんも大歓迎だよ」
「おっけー、伝えとくね」
いつ買いに行こう、と話しているところで、教室に友達と話しながら瀬名くんが入ってくる。
そこでようやく二人とも瀬名くんの約束をどうするか話し合っていたことに思い当たった。
「どうする?瀬名くんとの約束。凜は行きたいとこある?」
「うーん、やっぱ夏らしいことしたいよね。遠めだからあかりのこと考えるとバスで行くことになるけどさ、隣町のプールとかどう?あれなら室内だし」
「楽しそう・・・!」
「でも瀬名くんってモテるからプールとか海なんて100回は行ってそうだよね」
「う、そう言われるとそんな気もする・・・・」
それを言うとたいていのことは100回くらい誘われてそうだ。
ただ瀬名くんが凜と私を希望を却下する想像がつかないからいいよって言いそうだけど。
「瀬名くんにも確認してみる?・・・って言っても話しかけるタイミングないんだよねー・・・・」
「あ、私連絡先知ってるから送っとく」
時間があるときに読んでくれれば、と思ってスマホを開く。
(凜と三人で遊ぶ約束だけど、プールでもいい?・・・っと)
送信してから何気なく瀬名くんの方をみたら、ぱちっと目が合った。
思わず自分の手元にあるスマホを指さす。
(・・・・あ、別に今読まなくてもよかったんだった)
そう思いなおしたが、もう瀬名くんは自分のスマホに目を落としていた。そして私からのメッセージに目を通す。
視線をあげた瀬名くんは、私と視線を合わせて、口パクで何か短い言葉を言ってきた。
そして直後、『なんて言ったかわかった?』とスマホに送られてきた。
(・・・・もちろん、かな?)
物は試し、そう書いて送ってみると、花丸マークが帰ってきた。
「凜、もちろん、だってさ」
「そっか。じゃあ決まりだね。瀬名くんのが予定詰まってそうだから、日にちは瀬名くんに合わせよっか」
「それも送っとくね」
今度は友達との会話の邪魔にならないよう、時間を空けてから送り、送ったあとも瀬名くんの方は向かなかった。
けどまたすぐ返信が来た。
『あとで暇な日確認して伝えるね』
お願い、と送りかけたところにまたメッセージが入る。
『てかなんで今度はこっち向いてくんなかったの?』
『友達との会話の邪魔になるかと思って』
するとさみしそうな顔のスタンプが送られてきた。
仕方なく瀬名くんの方を向く。
瀬名くんは目が合うとわざとらしく泣いているようなジェスチャーを一瞬見せる。
私も小さく瀬名くんをなでるようなジェスチャーを返す。
お互い小さく笑ったあと、何事もなかったかのように視線をはずした。
「ね、あかり、今海に連絡送ったらすぐ返信来たんだけど!あいつの学校スマホ禁止なのにまじ―――――ん、あかりどうかした?」
「え?なんで?」
「いやなんか・・・・嬉しそうだったから」
「!・・・・ううん、なんでもないよ」
瀬名くんとの秘密だらけの不思議な友達関係。
それが案外楽しいってこと、ちょっと前の私に教えてあげたいって思ったんだ。