のんびり歩きすぎたけど、やっと空き教室に着いたので、手身近な椅子に腰掛ける。


「さ、食べよっか」

「うん」


 袋を開けて、タルトを取り出す。
 瀬名くんはクリームプリンを食べるらしく、使い捨てスプーンを取り出す。


「いただきます」


 挨拶も早々に、さっそくタルトを一口。


「ん~~~・・・・!」

「おいし?」

「うん!!」


 レモンのフレッシュな酸味と皮のさわやかな苦み。甘すぎないレモン本来の感じがすごく私好みだ。


「そういえばこうやってなんかいっしょに食べるの初めてだね」


 瀬名くんがふとそう言う。
 確かに、よく考えると昼食をいっしょにとったことはないし、プライベートでごはんにいったこともない。


「俺としてはお昼休みとかもあかりちゃんと過ごしたいんだけどなー」

「瀬名くんが毎日いろんな子とごはん食べる約束してるんでしょ。私のせいじゃないし」

「何々ー?妬いてくれてる?」


 嬉しそうなのか、からかっているだけなのか。判断に困る。

 私はため息をひとつつき、瀬名くんの言葉を無視してタルトをほおばる。


「あ、怒った?ごめんごめん。でもさ、俺あかりちゃんがいっしょに過ごしてくれるって言うなら、他の約束全部キャンセルするから」


 瀬名くんは私の顔をのぞきこんで、妙に真剣なまなざしで私の目をみた。


「俺と過ごすの、やだ?」


 その瞳の綺麗さで、思わず言葉に詰まった。
 教室の窓から差し込む朝日が、瀬名くんの瞳にうつり込む。


「い、いや・・・・じゃ、ないけど・・・」


 思わずそう言いてしまったけど、ほんとは違う。

 瀬名くんと過ごす時間はきらきらしている。楽しくて、うれしくて、心地いい。
 私は生まれてこの方凜以外の仲良しなんていなかった。その凜とは生まれた時から仲良しだから、こうやって少しずつ少しずつ相手のことを知って、知ってもらって、打ち解けていくのって私にとっては心から特別な時間なんだ。

 友達のことを新しく知ること、友達に私のことを知ってもらうこと。
 その喜びを知れたのは、瀬名くんのおかげ。


「で、でもっ、お昼一緒に過ごすのはだめ・・・。絶対に吸血のことが知られないよう、人前では必要以上に接触はしたくないの・・・」

「友達なんだし、一緒に過ごしてても変に思われるわけないってば。ここしばらく教室でもたまに話してるし、周りから見たって急に仲良くなりすぎて変ってほどでもないでしょ」

「そ、それでも・・・・、瀬名くんと関わってると目立つからだめ・・・。私は目立たず生きたいの。誰も私を気にしてない、意識してない、そういう状況じゃないと安心できないから・・・・」


 私が誰にも知られたくない秘密を抱えて生きていることを、瀬名くんはもう知っている。
 だから、私の言葉を聞いて諦めたように視線を下げた。


「・・・・わかったよ、じゃあ代わりに月曜日はこうやって話そ?」

「うん」

「俺、あかりちゃんのこと知りたいから」

「・・・・うん、私も」


 瀬名くんが、私と同じ気持ちでいてくれる。
 自分が歩み寄ろうとする人が、同じようにこちらを向いて歩み寄ってくれる。

 これってとっても幸せなことだと、そう思った。