ピピピピピピ

「37度5分、か。」

「おかあさーん!今日学校休んでもいい?」

「どうして?」

「熱あるの!だから休んでいいでしょ?ね?」

「熱があるんなら仕方ないわね。お母さん今日仕事だけど、大丈夫?」

「大丈夫だから!後で病院行くつもりだし」

「そう、お大事にね。じゃあ仕事行って来るから」

パタン。

シーンと静まり返った部屋に春風が吹き抜けていく。

「今日学校行かなくていいんだ。」

そう思うと嬉しくて、でも何故か私の頬にスーっと涙が伝う。

「病院行こ。」

熱があるせいか視界がぐにゃあとゆがんで見えていつもよりも病院にたどり着くのに時間がかかってしまった。

「やっと、着いた…」

病院に入った瞬間、驚きのあまり声を失った。

そこには、クラスのアイドル天野ういはがいた。

「美里さん、?」

天野さんが大きな目を見開いて狐につままれたような顔をしている。

「どうして美里さんが病院にいるの?」

彼女は怯えた声で私に尋ねる。

「風邪ひいちゃって、病院に来たの。」

「そうだったんだね。」

「天野さんこそなんで病院にいるの?」

なんて聞いたけど、聞かなくたって理由は大体分かっていた。

天野さんの腕には点滴が刺さっていて、きっと何かの病気なんだろうなとわかる見た目だったから。

「美里さん、大体わかってるでしょ?
わかってて聞いてくるなんて意地悪だね。」

あははといつも教室で笑っているように天野さんは笑う。

「ほんとは誰にも言いたくなかったんだけど、見られちゃったんなら仕方ないよね。
私ね、膵臓癌なの。」

「今はまだ初期だからそんなに重度じゃないけどね。」

「え、?」

想像していたよりもずっと重い病気でかける言葉が見当たらなかった。

慌てて私がなにか言おうとした時、

「同情の言葉とか励ましの言葉とか要らないから。今言った膵臓癌のことも気にしないで。だけど、一つだけお願いがあるの。私が膵臓癌だってことは誰にも言わないで欲しい。」

真っ直ぐな視線が私の胸に刺さる。

「言うわけないじゃん!そんなこと!」

「そっか。なら良かった。じゃあ、美里さんもお大事にね。」

そう言い残して天野さんは点滴を押して病院の奥の方へと向かっていった。

その日はクラスのアイドルの思わぬ側面を見てしまった気がして、中々眠れなかった。

そして、気がつくと時計は0時を回っていた。

心配でたまらなかったのだ。

天野さんのことが。

天野さんはいつから膵臓癌なんだろう。

ほんとに軽度なのかな?

てか、膵臓癌って発覚した時にはもう手遅れって聞くけど、大丈夫なのかな?

とりとめのないことが頭の中に浮かんでは消えてを繰り返す。