「ねぇ百合」
「ん?」
「私、やっぱり学校戻りたい」
「…ういは」
「まだ体は本調子じゃないけどさ、
でもずっとこのまま“待ってるだけ”なんてイヤだなって思って」
「そっか。じゃあさ、戻ってくるその日、私が迎えに行っていい?」
「え、ほんと?制服で?」
「うん、リボンもちゃんと整えて行くよ?」
「うわぁ、それ絶対泣くやつ」
ういはが笑う
その顔は、前より少しだけ大人びて見えた。
季節はゆっくり進んでいく
病室の窓から見える木々も、少しずつ緑を濃くしていた。
ういはは今日も手帳を開く。
《やりたいことリスト》
1.百合と海に行く ← まだ
2.学校に戻って、ちゃんと卒業する ←もうすぐ
3.髪の毛が伸びたら、ツインテールにしてみる(笑) ← 途中
4.夢をひとつ、見つける ← 準備中
5.ちゃんと、自分の気持ちを伝える ← まだできてない
「…これだけは、まだ怖いな」
5番目の項目を見つめて、小さくつぶやく。
放課後の教室
ひとり窓際に座る百合が、ノートをめくる。
“今日のういはは、少し顔色が良かった”
“また笑ってくれた”
“もう少しで、会える”
ページの隅に描かれた、笑顔の天使の絵
「もうすぐ、戻ってくるんだよね」
退院日が決まった
校舎の裏で、風が桜を運ぶ
――最終回につづく


