そうこうしているうちにパパが仕事の電話で席を立った。一人残された私は手持ち無沙汰になって、バッグからスマホを取り出した。
(SNSチェックしとこ。あ、『good』ついてる。……ん? この人誰だろ)
HALの投稿に高評価がついて嬉しくなった私の目に飛び込んできたのは、フォロワーが宣伝しているアカウントだった。
「〝アオイ〟だって。ふうん、モデルなんだ……」
そのアカウントは同い年くらいの男の子のものだった。色素の薄い髪と目、あどけない笑顔が子犬みたいでかわいい。最近雑誌に載る機会が増えているようで、撮影のオフショットが投稿されている。
「へえ、人気急上昇だって。すご……」
次の画像を見ようと思い、画面をタップしようとした時だった。
「――柚里葉、お待たせ。真智さんが着いたよ」
「えっ!」
すっかり気が抜けていた。慌ててスマホをしまった私が顔を上げた時には、すでに真智さんは部屋の中に入ってきていた。
さっぱりとした薄緑のワンピース、潔くひとつにまとめられた長い髪。メイクも私たちがするものとは違う。働く女性、といった雰囲気だ。
そして当たり前だけど真智さんは大人の女の人だった。
私にとって大人の女の人なんて、学校の先生以外に接点のない存在で……。
「遅れてごめんなさい。はじめまして、榛名真智です」
「ハ、ハジ、ハジメマシテ……」
すっかり見とれていたら、真智さんが私に声をかけてくれた。でも私はカタコトでしか返事が出来なかった。
(ううう……恥ずかしい)
私の気持ちは地の底につきそうだ。でもパパがフォローを入れてくれる。
「娘の柚里葉だよ。少し恥ずかしがり屋でね」
「うふふ。私も初めてで緊張しているの。おんなじね」
真智さんの言葉に私はハッと顔を上げた。そこには柔らかく私を見つめる真智さんの笑顔。
「私、柚里葉さんに会いたかったの。お父さんから柚里葉さんのお話、よく聞いていたから」
「は、はい……」
パパ、いったいどんな話をしていたんだろう。でも真智さんの言葉で私の気持ちは少しだけ軽くなった。