パパよりもずっと背の高い男の人。
 きっちりセットしてある黒髪はいかにも「社会人」という感じだ。

 私が声を失くしたまま見上げていると、無表情な男性の黒縁メガネの奥がきらりと光る。

「柚里葉ちゃん、こちら俺の担当の小野寺先生」
「どうも、小野寺です。蒼くんのお世話してます」
「ちょ、何その言い方!」
「本当のことでしょう。あんなに小さかった蒼くんを何年も担当してるんですから」

 小野寺先生と蒼くんの掛け合いは、まるでお笑いの人たちのようだった。

(もしかして、小野寺先生って面白い人?)

 すっかり小野寺先生の大きさに圧倒されていたけど、落ち着いて見れば穏やかそうな雰囲気の先生だった。

 小野寺先生は蒼くんとのやり取りを一段落させると、私の事をジッと見て言った。

「もしかして蒼くんの彼女……?」
「いやいやいや! ちがいます!」

 慌てて私は否定した。
 すると小野寺先生はふーんという顔をして、「まあいいか」と言いながらススっと私たちの側から離れた。

「さ、中へどうぞ。三隅さんは始める前に僕が少し説明するからね」
「行こう、柚里葉ちゃん」

 蒼くんはすでに靴を脱いで、中に入っていた。
 もうここまで来たら引き返せない。

(よ、よし! 頑張るぞ!)

 私は覚悟を決めて靴を脱いだ。