私はエレベーターからフロアに降り立った。
 塾の入り口になっている自動ドアはエレベーターのすぐ目の前だ。

 明るい光と、落ち着いた雰囲気の入口に、私の緊張は少しほぐれる。
 
(とりあえず挨拶はしっかりしないと。〝HAL〟ならきっと、明るく挨拶しているはず……)

 よしっ、と気合を入れ、私は蒼くんと共に一歩を踏み出した。

「こんばんはー」
「コ、コン、コンバンハ……」

 だ、駄目だったー! 結局カタコトの挨拶になってしまい、私の目の前が真っ暗になる。

(もうダメだ。変な子だと思われて、絶対笑われちゃう……って、ん? なんか本当に暗い?)

 真っ暗になったのは私の気持ちのせいだけじゃなかったらしい。
 
 蛍光灯の光を遮るように、私の上に影が落ちていた。

「え……?」
「どうも。小野寺です」 

 私ははるか上から聞こえた声に、ぐいーっと首を持ち上げた。

「……ひゃぁ」

 そこにいたのは天井まで着きそうなほど、身長の高い男性だった。