「俺ね、昔から『家族』に憧れてたんだ」

 ドアの向こうで蒼くんは話し始めた。

 小さい頃からほとんど一人で過ごしていたこと……。
 
 顔も知らない父親のことを聞きたくても、真智さんと気まずくなること……。

 寂しい時間を少しでも減らしたくて、モデルの仕事を始めたこと……。
 
「だから巧さんや柚里葉ちゃんと家族になれるかも……って、すごくうれしかった」
「そうだったんだ……」
「でも俺――」

 蒼くんはそこで、一旦言葉を切った。

「俺……、柚里葉ちゃんのこと全然考えられてなかった」
  
 蒼くんが絞り出した言葉は苦しそうだった。