私が何も言えないでいると、蒼くんは嬉しそうに口を開いた。
「HALちゃんって柚里葉ちゃんだったんだ! びっくりしたー! 有名人がこんなに近くにいるなんて――」
「ごめんっ! お願いだから内緒にしてて!」
私の口からようやく飛び出したのは、口留めの言葉だった。顔の前で手を合わせて、蒼くんに頭を下げた。
あまりにも必死に見えたのか、蒼くんはびっくりしたような、引いたような顔になった。
「そ、そうなんだ……? わかった、絶対内緒にするよ」
蒼くんがそう言ってくれて、私は少しホッとした。でもホッとすると同時に、胸の奥からぐちゃぐちゃした感情がこみ上げてきて――
「……ごめん。私なんかがごめんなさい――!」
「あっ、柚里葉ちゃん?!」
私は逃げ出した。
蒼くんを押しのけるようにリビングを抜け、階段を駆け上って自分の部屋に飛び込んだ。
ドアを閉めると、一気に足から力が抜けて、私はその場に座り込んでしまった。
「バレちゃった。私、もう終わりだ……」
蒼くんがどういう人かまだ全然知らない。でも、蒼くんもきっと思うはず……。
――どうして柚里葉なんかが配信者やってるんだ、って。
ツンと鼻の奥が痛くなってくる。
「学校にも行けてないのに、私なんかがごめんなさい――」
膝を抱え込むと、膝の上にぽたりと涙が落ちた。
「ママ、私どうしたらいいの?」
でもいくら尋ねてもママは答えてくれない。
いっそ、ママと同じところに行けたら良かったのに――。