けど、俺たちのやり取りをスタジオ中が注目していたらしい。

 ワッと俺の周りに人だかりができた。

「ねぇっ! 今の俳優の高野内(こうのうち)颯斗(はやと)よ! 握手してもらえばよかったぁ!」

「そう言えば隣のスタジオも撮影してたんだっけ! ちょっと覗きに行ってもいいかな?」

 みんなきゃあきゃあ騒ぎ始めた。

「高野内、颯斗……」

 さすがにその名前は俺でも知っている。

 映画やドラマに出れば必ずヒット作になる実力派俳優。

 母さんがあまりテレビを見るのが好きじゃないから、顔までは覚えていなかったけど……。

(でもどうしてそんなすごい人が俺の名前を……?)

 俺は手の中のメモを見ながら、ざわざわする胸を落ち着かせようと必死だった。

 この時の俺の胸騒ぎの正体が明らかになるのは、まだ少し先のこと――。