私の名前は「HAL(ハル)」。
 でもそれは本当の名前じゃない。

「みんな~! 今日も生配信お付き合いいただきまして、ありがとうございました! 楽しかったよ、という方は、ぜひ高評価、チャンネル登録お願いします。ではでは、また次回。まったねぇ!」

 私がそう言うと、コメントが勢いよく流れる。

《またね、HALちゃん!》
《今日もたのしかったよ》
《おつかれさまー》

 ある程度コメントを見てから、私の指は「配信終了」ボタンを押した。

 その途端コメントは消えて、画面には笑顔の私の顔だけが映っている。天国のママに似たぱっちりお目目に、お手入れ済みのつるんとしたおでこ。サラサラの髪は私の一番の自慢だ。

 無事に配信が切れているのを確認して、私はぱたんとパソコンを閉じた。

「はぁ。今日も楽しかったー」

 バフンと倒れ込んだのはベッド。私の癒しの場所。

 私の本当の名前は三隅(みすみ) 柚里葉(ゆずりは)。中学一年生。
 ――でももう一つの顔は、現役JC配信者「HAL」。ゲーム実況からメイク動画、歌ってみた系まで幅広いジャンルの動画を配信している。現在チャンネル登録者数10万人以上!……なんだけど。私には秘密がある。

 ――ピロリロン! 約束の時間まであと10分です

 突然アラームが鳴り、私はハッと思い出した。

「――あっ、そういえば。今日、先生家庭訪問に来るって言ってたっけ」

 私は慌てて起き出し、せっかくきれいに整えた髪をぐしゃぐしゃっと崩し、ダサい伊達メガネをつける。

「うん……これでよし」

 鏡の中には長い前髪で顔をすっかり隠して、全然顔の見えない、いかにも陰気な女の子が映っている。

「柚里葉は『HAL』とは正反対の陰キャだからね……っていうか、こっちが私の本来の姿なんだけど」

 私はいわゆる不登校。学校に行けていない。
 学校に行ってないのに、大人気配信者になっているなんてことは絶対に秘密。陰キャのくせに何やってんのって馬鹿にされるに決まってる。バレたら人生終わる。

「ま、引きこもってる私には死角はない! 誰にも会わなきゃバレる心配なんてないもんね」

 ……なーんて、思っていたんだけど。私の人生を変える出来事が起きるなんて、この時は考えもしなかったんだ。