長谷川湊。その名前を忘れたことはない。
私の初恋の人。
そして、私がいじめてしまった人。
再会…してしまった。
「ちょっとうるさいって何よ?」
「言葉通り。
初対面の人にぐいぐい行き過ぎ。
成瀬さん呆れてるよ」
「ええー?そんなことないよね?」
「とりあえず本返してあげたら?」
「あ、それか」
二人の…中野さんと長谷川くんの
テンポいい会話に私はふと思う。
二人は…付き合ってるのかな?
いや、ダメだ。そんな妄想をしてしまった
せいで私は彼を苦しめてしまったのだ。
ただ、中学校が同じだったのか
そんなのだろう…。
後…ひとつだけ幸いなことがあった。
成瀬さんって。
他人行儀な言い方をしている。
『橋本莉菜』のときは
橋本、って呼び捨てだったのに。
私が、彼をいじめた張本人だって…。
バレてないのかもしれない。
と、そこまで考えて私は目を見開く。
なんで安心しちゃったの?
私はずっと彼に贖罪することを
望んでいたのではないか。
それなのに…っ。
「中野さんっ、私は全然
気にしてないから…」
「そうだよね〜?
湊が早とちりするせいで〜」
「成瀬さん、我慢しなくていいからね?
こいつ、いっつもうるさいから」
「こいつとは?聖人キャラは
どこに行ったのでしょうか〜?」
「うるさい」
「っていうか莉菜ちゃん、
あたしのこと彩音って、下の名前で
呼んでほしいな〜」
「じゃあ、彩音ちゃんでっ…」
「あと敬語も外して?」
うううっ…。やはり陽キャは
苦手でありますっ…!