入学式が終わって、私はクラス表に
記された自分のクラスに入る。
黒板に貼られた、出席番号順の席表を
見て自分の席に座る。
『橋本』にも『成瀬』という苗字にも、
ひとつだけコンプレックスがあるのだが…。
出席番号順に座るといつも真ん中の方に
なってしまうのだ…!
できるだけ隠キャとして目立ちたくない
私としては、それは苦痛でしかない。
四方八方を陽キャどもに囲まれて
暮らすのはなかなかに憂鬱っ…!
隣で意気揚々と会話するクラスメイトの
中で、肩を萎めてただただ
本を読んでるふりをする。
こうしとけば誰にも話しかけられないと
いうのは、中学の時に身につけた知識だ。
まあしかし、それでも避けることが
できない災いもあるわけで…。
「ねえきみっ、さっきからずっと
その本を読んでるけど、面白いの?」
前の席に座っていた女の子が
そう話しかけてくる。
成瀬、の一個前の中野。
中野彩音という、名前も陽キャという
雰囲気が臭う、紺色の髪を
ポニーテールにした子だ。
「モモ?あの、果物の桃のこと?」
「…」
全無視。いじめられるかもしれないが、
陽キャに時間を裂けるほど私は暇ではない。
ただ本を読んでいるフリを
しているだけだが。
「莉菜ちゃんって可愛い名前だよね〜!
下の名前で呼んでいい?」
「…」
「…莉菜ちゃんって賢いの?
あたしは赤点ギリギリでさ〜?」
「…」
「…無視しないで〜!」
「あ、ちょっと!」
彼女に本を奪われる。
何するんだ。窃盗罪で訴えるぞ。
「やっと話してくれた〜」
中野さんは不機嫌そうにそう言う。
「なんなんですか…」
私みたいな地味子に話しかけてくるなんて…
とは言わない。
ただ思いっきり怪訝そうな視線を
向けておく。
「いいから質問に答えて!
どこの中学校なの?」
「茅ヶ崎第二中学校です」
そろそろ無視するのも面倒臭く
なってきたので簡潔に私はそう答える。
「え、そこって玉ねぎの栽培で
有名なとこ?くそ遠いじゃん?
わざわざ行くの?」
「寮に入るので」
「そうなんだ〜!
あたしも寮に入ることになってるんだ!
一緒の部屋になれるといいね〜!」
陽キャ…陽キャの塊!
流石巷で噂されている陽キャという
怪物なだけある!一度話しかけたら
罠に嵌って、会話を終わらせることが
できない…!
「そういえば湊も寮に入るよね?」
中野さんがそう言って斜め後ろ…
私の隣を見る。
湊…?みなとって…?
私が恐る恐る隣を見る。
「そうだけど。あ、成瀬さんごめんね。
彩音がうるさくて」
そこには、私が昔いじめていた
長谷川湊がいた。