「……昴?」

 放課後、忘れ物を取りに教室へ戻ると、昴が机の上に突っ伏して寝ていた。

 わたしのつぶやき声に、昴が重そうに頭を持ち上げてこちらを振り向く。

「ああ……千夏か」

「なにやってるの? 早く帰って、ちゃんと寝たら?」

「駅まで歩けねえから……もうちょっと寝てから帰るわ」

 半分寝ぼけたままそう言うと、もう一度突っ伏してしまった。

「ほんと、なにやってんの」

 大きなため息をひとつ吐くと、机の中からお目当ての英語の教科書を取り出し、もう一度昴の方を見る。


 昴の席に、昴がいる。

 それだけなのに、なんだかホッとする。


「しょうがないなあ」

 20分経ったら起こしてあげるか。

 昴の前の席に腰をおろすと、無防備に机に突っ伏して寝息を立てている昴のあどけない横顔を、そっと見つめる。