わたしは昴のファンじゃない!

「ああ、もうっ。こんなとこ見られて、ヘンなウワサ立てられたりしたら困るんだってば。わたし、あっちから乗るから。じゃあね、またあし……」

 階段をのぼり終え、離れた乗り場に移動しようとするわたしの腕を、昴がぐいっとつかむ。

「ちょっ……なにすんの。離してってば」

「アイツとなに話してたんだよ」

 今までに聞いたことのないような不機嫌そうな昴の声。

 いやむしろ拗ねたような声?

「なんにも話してないよ」

「なんだよ。俺に言えないような話かよ」

「ちがう。本当になにも話してないの。だって……推しが隣にいて、しゃべれるわけないじゃん。推しはね、遠くから見てるだけで十分なの」

 それを聞いた昴が、プハッ! と吹き出した。

「なにそれ。あんだけ『南くん、南くん』って散々言っておきながら、一言もしゃべんなかったの? マジで?」