庶民の私は最低限の令嬢としての教養を学ぶべく、ツバキ団長の親戚の家で勉強をして。
 2週間後、私、ジェイ、白雪姫、シナモンの4人はドラモンド家へ向かうことになった。
 首都からドラモンド家までは、汽車で約15時間。
 夜行列車に乗れば安いんだろうけど、今回の出費は全てツバキ団長が出してくれるということで。途中で一泊して向かうことにした。
 そのほうが、身体への負担が少なくていい。

 汽車を目の前にしたシナモンは「まあ!」と感嘆の声をあげていた。
「シナモンちゃん、もしかして汽車に乗るの初めて?」
 会って二回目だというのに、白雪姫はシナモンを「ちゃん」付けにして距離感を詰めている。
「いいえ、昔。一度だけ乗ったことがあります」
 シナモンはにっこりと笑う。
 はたから見て私達はどういうふうに映っているのか?
 シナモンはごりっごりのメイド服で、私は動きやすいように黒のパンツに黒いシャツ。
 ジェイと白雪姫は護衛ということで、スーツ姿だ。
 こんな異様な組み合わせだが、知ったこっちゃない。
 ツバキ団長のお金を存分に使ってやろうと、汽車では個室を取った。
 
 私の隣にシナモン。
 私の目の前にジェイ、その隣に白雪姫という向かい合わせで座っている。
「もう一度さ、自己紹介しておかない?」
 とノリノリの口調で白雪姫が言った。久しぶりの遠出なのか、テンションが高めだ。

「おいらは、こんなに睫毛が長くて目が大きくて色が白いのにモテモテ男子のホワイト。この可愛さ故から、ミュゼからは白雪姫って呼ばれているのさっ」
 白雪姫がシナモンにウインクする。
 私は思わず、「げへっ」と声を漏らすが、シナモンは「わぁ~」と言って小さく拍手した。
「お仕事は、何をされてるんですか?」
「おいらはねえ。花街の門番。ボディーガード?」
 白雪姫の説明に余計なことをシナモンに言うなよと睨みつける。
 白雪姫は武術・剣術・銃術…すべてにおいて中途半端な成績で。
 でも、何故か無事に騎士団学校を卒業したのだが、無能のレッテルを貼られているので。花街の門番になった。
 女好きの白雪姫にとっては、一番合っている仕事だと思う。

「俺は、ジェイ。騎士団の…ってごめん。あんまり、詳しく言えないんだけど。戦ってます」
 騎士団は機密事項があまりにも多い。所属している所までぺらぺらと話すわけにはいかない。
 ジェイは凄く真面目な男で、武術を得意としている。
 国家騎士団の肉体班という戦闘グループのほうに所属していて、若きエースと歌われている。
「皆様は、3人とも同期なのでしょうか?」
 自己紹介といえども、詳細を語れないので、わかりにくい自己紹介になってしまったが。シナモンは仕事については、あまり突っ込まなかった。

 車窓から見える景色は次第に畑一色へと変わっていく。
 ガタゴトと揺れながら、汽車は進んで行く。
「うん。少年騎士団学校・青年騎士団学校って6年間一緒だった」
「6年間ですか!? まぁ」
 と言って目をキラキラさせるシナモン。
 こちらが何かを言うたびに反応してくれるせいか、白雪姫は嬉しそうだ。
「今考えても、凄い6年間だったなあ」
「ああ、いつも俺ら4人で行動してた…」
 4人…というジェイの言葉に、ピクリと身体が震える。
「4人…ですか?」
 と、シナモンは首を傾げる。
 白雪姫は咄嗟にジェイに肘鉄を喰らわして「おいっ」と怒鳴った。
 ジェイは、「あっ」と声を漏らして私を見る。
「すまん、ミュゼ」
「いいよ、いいよ。シナモン、もう一人いたんだよ。トビーっていうやつが」
 私の顔色が変わったことに気づいたのだろうか。
 シナモンは「そうなんですねー」と言ってそれ以上は突っ込まない。

「でもな、あれだよな。昔に比べたらミュゼも大人女子だな」
 話をそらそうと、白雪姫が私を見る。
「何さ、大人女子って」
「だって、昔おまえ坊主だったじゃんか」
 坊主…という言葉にシナモンは驚く。
「そんなに、学校の規則が厳しかったんですか?」
「いや、女子は坊主じゃなくて短髪で良かったんだけど…」
 思い出すと、今でも恥ずかしい感覚。
「いやあ、シナモンちゃん。ミュゼは男と間違われてそのまんまって感じだったから」
 ヘラヘラと笑いながら白雪姫が言う。
「俺もミュゼに初めて会ったときは男だと思ったもんなあ。背ぇ高いしさあ、坊主だしさあ」
 ジェイの言葉に本気で恥ずかしい過去だと感じる。

「騎士団学校は女性も入団出来るんですよね?」
 シナモンは話がわかっていないようで、こっちをじっと見る。
 そうだ、私達にとっては笑い話だが、シナモンは知らない。
「うん。私達の代には結構、女の子も入団していたけど…何故か、男の子に間違えられて。少年騎士団学校の3年間は、男の子として過ごしてた」
「まぁまぁ…えーよくバレませんでしたねえ」
 私より年下だというのに、急にシナモンの口調がおばちゃんぽくなる。
「別に隠しているつもりはなかったんだけど。不思議とバレなかったんだよねえ…」
「代わりにホワイトが女の子じゃないかっていう噂が流れてさ。大変だったよな」
 ジェイがにんまりと笑う。
「あー、本当だよ。おいら可愛すぎてすっげー、いじめられたんだから」
 ぷんぷんしながら、白雪姫が言う。
「ミュゼが一番でかくて力が強かったからさ、ホワイトをよくコキつかってたもんなあ」
「あー、思い出した。ミュゼは完全にあの頃から女王様気質で。俺が何度代わりにミュゼがやるはずの掃除当番をやったことか」
「あれえ、そうだったけえ?」
 と、とぼけて笑う。
 卒業して5年の月日が流れたというのに、2人に会うと今でも懐かしい。
 こうやって笑いあえる仲間がいるのって、本当に良かったと思う。
「最初は同じ部屋だったのがキッカケでそれから、青年騎士団学校でも皆一緒で…凄いね。私たち」
「配属先は違えど、また会えたことに感謝だな」
 ジェイがしんみりと言った。
 シナモンは黙って聞いている。