城下町を巡回する。
 今日はラッキーだと思いながらも、欠伸(あくび)を噛み殺す。
 2日間、あまり寝ていないせいか、頭がぼーとなりながらも。
 目の前に行き交う人間をじっと観察する。

 ずらりと並んだ露店に人々は所せましと買い物を楽しんでいる。
 2人で行動するのが常だが、相方である先輩は私に仕事を押し付けてどこかへと消えた。
 だから、私は一人うろうろと町を巡回するしかない。
 ふと、誰かの視線を感じたので。
 前を見ると。
 一人の侍女が私を見ているではないか。
 驚いたような表情をしている。
 知り合いだっけ? と考える。
 年は16~17歳くらいだろうか?
 黒いワンピースに白いフリッフリのエプロン。
 頭は三つ編みをお団子にして左右に結ってある。
 侍女と目が合うと、侍女は表情を崩して大きな目から涙を流した。
 驚いた私は、彼女に近寄る。
「大丈夫ですか? お具合でも…?」
 言いかけたところで、侍女は首を左右に振る。
 私たちのことなんてお構いなしに、人達が通り過ぎていく。
 私は彼女を連れて、近くにある広場へ連れて行く。

「申し訳ありません…」
 彼女は顔をごしごしと裾でこすった。
「あの、私のこと見てましたよね? どこかでお会いしましたっけ?」
 国家騎士団に入団してから、めまぐるしく色んな人との出会いがあり、別れがあるせいで、彼女のことを思い出せない。
「ごめんなさい。何でもないんです。ご迷惑おかけしました」
 こっちの質問は一切無視して、彼女は深くお辞儀した。

「あの、少し休まれていかれたらどうですか?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
 彼女はもう一度頭を下げて、速足に去って行った。
 ぽかんとしながら、私は彼女の後ろ姿を見る。
 どこで会ったんだろう?
 それとも、助けを求めていたのかもしれない。

 町で出会った彼女との存在はずっと、モヤモヤしたままだった。