主役が帰ってしまったのだから、おひらきになるのは当然なわけで。
 鈴様に突き飛ばされてしゃがみ込んだ、アスカ嬢は、
「なんなのよー」
 と叫んだ。

 令嬢たちは、侍女や騎士たちに支えられながら帰っていく。
「わたくしたちも帰りましょう」
 シナモンに言われて、急いで立ち上がった。

 帰り道は運動がてら歩いて帰ることにした。
「シナモン、なんで紅茶に何か入ってるってわかったの?」
 シナモンは後ろにいたけど、私の横に並んだ。
「見てしまったんです。今朝、侯爵家の厨房に調理器具を借りに行ったら、そこでアスカ様の専属シェフたちが騒いでいて…」
 シナモンの話によると、厨房は基本的に誰でも立ち入りできるそうで。
 そこでお茶会の準備をしていたアスカ嬢のシェフがアスカ嬢に無理難題を押し付けられていたとか。
「アスカ様は、鈴様一人だけに媚薬を混入させたかったようですが、鈴様や侯爵様は常に毒見係がいらっしゃいますので無理かと」
「だから…全員分の紅茶に媚薬を入れたの?」
 口をあんぐりと開けて立ち止まった。
 そこまでして、鈴様の心を手に入れたいのか…
「何もしなくても、アスカ令嬢が選ばれるのに決まっているのに」
「自信があるように見えて、不安なのかもしれません。わたくしの見る限り、鈴様はアスカ様にご興味がないようでしたから」
「…いくら緊急時だからって、貴族のボンボンが侯爵令嬢突き飛ばすかねえ」
 はああ・・・と大きなため息が出た。