家に戻ると、部屋中に美味しそうな匂いが溢れていた。
「おかえりなさいませ。お夕飯、準備できています」
 シナモンは笑顔で私たちを出迎えてくれた。
 ダイニングルームへ行くと、気まずそうな表情でジェイが座っている。
 テーブルの上にはご馳走が並んでいる。
「おい、ジェイ。シナモンちゃんと2人きりだからってエロいことしてねーだろうな」
 白雪姫が食ってかかったので、私は無言で白雪姫をパンチした。
「してねーよ。シナモンさん部屋で横になってたし」
「白雪姫の言うことなんていいから、お腹すいたー。シナモン大丈夫なの? 体調は」
「大丈夫です。お騒がせしました」
 身体を90度近く折り曲げてシナモンが頭を下げる。

 全員が座って「いただきます」と言って各自、スプーンorフォークを手に取るが。
 シナモンは食べる様子を見せない。
「皆さん、先程は本当にご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」
 シナモンの謝罪に私とジェイは手を止める。
 白雪姫の咀嚼音が響いた。
「ねえねえ、この際だからはっきり()くけど、シナモンちゃんとあのゼンって男は顔見知りという認識でOK?」
 ガツガツ食べながら白雪姫が言う。
 ほんとコイツは空気を読まずによく訊けるな…。
「私は初対面ですが、あちらは私を知っているようですね」
 遠い目をするシナモンにやっぱり訊くのをためらったがジェイがいることだし、ここではっきりとさせたほうが後で厄介なことにならないだろう。
「一族って言っていたけど、要はあの人とシナモンは親戚っていう認識でOK?」
 口調を白雪姫に真似ておどけてみせたけど、シナモンは真顔だった。
「あいつと同じ一族とくくられるのは、癪ですが…同じ一族でした」
「でした…って過去形なわけ?」
 ようやくジェイが口を開いた。
「わたくしはこの通り、一族から抜け出してツバキ団長様のところで働いておりますし、あの男は…罪を犯して・・・」
 苦痛を浮かべるシナモン。
「罪っていうのは、ご主人様に手を出したりとか?」
「ご主人様の持ち金盗んで逃げたとか?」
 うっ…と固まるシナモンに、なるほどねえと私と白雪姫は目を合わせて頷き合う。
 名門スペンサー家に対して、とんでもない失態を犯したのに。
 首をはねられないのが不思議なくらいだ。
「なんで、そんな奴がドラモンド侯爵に仕えてるんだ?」
「白雪姫、そんなの簡単でしょ。情報が欲しいのよ」
 スペンサー家は王家と繋がりがある。
 ドラモンド侯爵は情報を手に入れたいからに違いない。

「そういやさ、あの男。シナモンちゃんにクソババアとか良いご身分って言ってたけど。クソババアって言うのは使えてたご主人? シナモンちゃんは坊ちゃんに仕えてたんでしょ?」
「…クソババアというのは、私のことです」
 白雪姫の質問に、シナモンは目をうるうるとさせ始めた。
「クソババアって、シナモンまだ10代でしょ。私らよりも若いじゃん」
 思わず突っ込むと、シナモンは目に涙を浮かべる。
「わたくし…一族の中でもドン臭くて、家事も容量悪くて、物覚えも悪くて、ババアよりも使えないって言われてて、考え方も古臭いし」
 しくしく泣き出したシナモンに「ストップ」と大声を出したのは意外にもジェイだった。
「シナモンさん、俺が疑り深い性格だからって、無理しなくて話さなくていいんだ」
 気まずそうな表情でジェイはシナモンを見つめる。
「俺はシナモンさんを信じるって決めた以上、無理して話さなくていいよ。誰にでも言いたくないことだってあるし、秘密だってある」
「そうだぞ、おいらだってミュゼにだって言えないこと沢山あるんだから」
 完全に巻き添えをくらった気がするが、私も「そうだそうだ」と頷いた。
 可愛い顔に涙は似合わない。
 シナモンの泣き顔は胸を痛める。
「なるべく、ゼンって人とは関わらないようにしよう」
 私の言葉に一同は深く頷いたのだった。