子爵令嬢として今日から私はエアー…という呼び名で過ごさなければならない。
 身支度を済ませ、未だ慣れないドレスを身にまとって会場へと向かう。
 会場は婚約者候補の本人だけが入場を許されるので、
 護衛と侍女は入口の前で待っている。
 入口にいる案内係に名前を告げ、中へ入ると。
 がらんとした部屋の真ん中に椅子が置いてあり、そこには既に何人かの令嬢が座っている。私は3列目の一番右側だ。
 一列目に座っているのが、多分…アームストロング侯爵令嬢かなあ?
 皆、緊張した面持ちなのに一人。余裕を浮かべながら扇子をパタパタと動かしている。
 きょろきょろしてはいけないんだけど、他の令嬢を見ていると。
 見覚えのある女性がいる。
 あれ? と見ていると、その女性はこっちを見て軽く会釈してきたので、こっちも慌てて会釈した。

 暫くすると、すらっとした小柄の男が皆の前に立った。
 ガリガリに痩せていて、骸骨? と心配になるくらい痩せている。
「お待たせしました。これより、ドラモンド侯爵のご子息、鈴様の花嫁選抜大会を始めます。まずは、ドラモンド侯爵様より皆様へのご挨拶です」
 扉ががちゃと開くと。
 背の高い男が入って来る。
 ドラモンド侯爵を見た令嬢たちは、思わず「きゃあ」と声を漏らした。
 ドラモンド侯爵は茶色い髪をリーゼントにして顎髭が立派な人だというのが第一印象。
 40代だそうだけど、若く見えるし肌が綺麗。
 白い肌に整った顔立ちを見ていると、絶対に若い頃はモテたに違いないと感じる。
 イケオジだなあ…。

 地方の騎士団は、それぞれイメージカラーを持ち、エンブレムが特徴的だけれど。
 ドラモンド侯爵家は真っ白な制服に胸元には鳥の刺繍がしてある。
 頂点に立つドラモンド侯爵は白い制服に赤いマントを肩からぶら下げている。
 真っ白に赤という何だか目がチカチカする…。
「本日は遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。これより一週間、我が息子、鈴の花嫁を選抜したいと思います」
 甘いマスクにしびれるような優しい声。
 皆がうっとりしているが、騙されてはいけないと私は太ももをつねった。
 まったく、何を考えているのかがわからない。
 その優しい表情の裏で何を考えているのか全く見えなかった。
「本日の予定ですが、まずはわたくしとお嬢様方一対一で面談をさせていただきます」

 ドラモンド侯爵の言葉に「なんで?」と皆がザワザワと騒ぐ。
 普通は鈴様と面談なのでは? と疑問に思うのはもっともだ。
「ハハハ。大丈夫ですよ、皆さん。明日には鈴との面談も設けておりますから。不満かもしれませんが、まずはわたくしとの面談をお願いします」
 初日にしてピーンチッ。