汽車の中では、随分と色んな話をした。
 夕方になって、汽車を降りて。
 ちょっとお高めなホテルに一泊して。
 夕飯は美味しいものを食べながら、高い酒を飲んで…
 自腹じゃないので遠慮なく散財して。
 久しぶりに会うメンバーが嬉しくて。
 とにかく喋って、食べて、飲んだ。

 翌日は、完全なる二日酔いのもと。
 汽車に乗り込んで、眠気眼で車窓を眺めている。
 白雪姫は、たらふく飲んだ後。花街に行ってたようで、朝帰りしてきやがった。
 4人は引き続き、個室で、昨日と同じ位置に座っている。
「白雪姫、酒臭ぇし、香水臭いし、何なんだおまえは」
 ジェイが嫌がるように、言い放つ。
 酒臭い…という言葉に、一瞬。自身の身体を震わせる。
「今日の夕方には、ドラモンド家に着くからな。それまでに予習しておこう」
「ゲフッ」
 白雪姫が遠慮なしにゲップしたので。
 ウゼェ! とジェイが言った。
 昨日のどんちゃん騒ぎで忘れていたけど。
 そうだ…こんな楽しいのに任務だったと本来の仕事を思い出した。

「ドラモンド侯爵家の現当主。ドラモンド侯爵。呼び名はスワン。もともとは、侯爵家の跡取りではなかったので、幼い頃から国家騎士団の頂点になることを目指して奮闘。ツバキ団長とは同期で、かつては団長の座を奪い合うほどの仲だったそうだ」
「ふーん」
 国家騎士団なら誰もが知っているツバキ団長とドラモンド侯爵の武勇伝。
 知ってるよ…と突っ込むのも失礼なので、適当に相槌を打つ。
「国家騎士団でかなりの地位に昇りつめたにも関わらず、あっさりと退団。その後は、どういう手を使ったかはわからないけど侯爵の座を奪ってドラモンド侯爵になり北部の領地を潤している」
「ドラモンド侯爵は、20代の頃に海外の貴族と結婚して子供も生まれたそうだけど、奥さんがここの土地が合わないからって、子供が産まれてすぐに離婚。子供は奥さんが引き取って、それからずっと独身だったらしい」
 女性問題に関して、絶対に詳しい白雪姫が虚ろな目で説明する。
 吐き出る酒の匂いに、むっと顔をしかめる。
「再婚はしていないそうだけど、南部のケリー侯爵家から養子として迎えたのが、鈴っていう今回のミュゼの相手だ」
「北部のドラモンド侯爵が、南部のケリー侯爵家から養子を貰うって、凄い関係だね」
 思わず突っ込まずにはいられない。
「それだけじゃないぜ。ケリー侯爵の実子は4人で。そのうちの長女はスペンサー家に嫁いでる。実際のところ、ドラモンド侯爵は南部、中央部とのパイプがあるわけだ」
 さらりと白雪姫が説明するが。
 スペンサー家というワードに、ちらりとシナモンを見てしまう。
 シナモンは表情一つ変えずに黙っている。

「今回、息子である鈴っていう男の嫁の相手を探すという大会だが、勿論。裏があるし、相手だって決まってる」
「…やっぱ、そうだよねえ」
 ドラモンド伯爵が何の考えもなしに、花嫁選抜大会なんてするわけがない。
「花嫁候補はミュゼを入れて11名。その中で本当の花嫁候補は、東部のアームストロング侯爵の娘であるアスカ令嬢」
「わー、もう決定じゃん」
 侯爵令嬢…と聞いて、思わず拍手をしてしまう。
「しかも、アスカ令嬢は元々、鈴の婚約者だったわけだ」
「え? 元々っていうのは…」
「鈴の実の父親であるケリー侯爵とアスカ令嬢の父親のアームストロング侯爵は幼なじみでお互いの子供を結婚させようと計画していたそうだ。ちょうど同い年の子供が生まれたってことで2人とも、生まれてすぐに婚約者同士になった。だが、鈴が養子になったが為に婚約破棄となったわけ」
 ジェイが真剣に語る横で、うとうとし始めた白雪姫を睨みつけながら「そっかー」と相槌を打った。
「あと、もう一人。予備と言ったら言葉が悪いけどアスカ令嬢が駄目だった場合に控えて、ゴディファー家の血縁者である、ヒナタ伯爵令嬢がいるけど…まあ。アスカ令嬢だろうな」
「完全な出来レースってわけだ」
 あちゃーと頭を抑え込む。
 シナモンはニコニコと笑っているだけだ。
「俺らは、ツバキ団長に言われた通りの任務を遂行するだけだ」
 騎士団の鑑だな…と思えるジェイの横で、白雪姫は完全に寝ているのであった。