東京都港区在住の畠仲良夜(はたなか りょうや)二十五歳は、五歳の娘と二人暮しをしている。

妻は、娘が二歳の時に病死。病気が見つかった3日後に、静かに息を引き取ったのだ。

良夜は当時、警視庁捜査一課に務めており、検挙率NO.1の腕を持つ男なのだ。
人柄も良く、上司や同期、後輩からも好かれており街の人々からの人気も絶えなかった。そして、次期警部になると言われていたが、妻の死を機に自ら交番勤務へと異動した。

その全ては、自らの手で娘を育てるため。

「なぁ、零菜」

「なーに?」

良夜と零菜は、夜のお散歩が毎日の日課だ。ある散歩の日、良夜は零菜の前に屈み目線を合わせ、こう聞いた。

「零菜は、大きくなったら何になりたい?」

「零菜はね、パパみたいなお巡りさんになるの!悪いやつを捕まえるんだ!」

良夜は、嬉しそうな…でもどこか悲しそうな顔をした。それは、良夜自身が警察という仕事の大変さ、命の重さを誰よりも知っているからだ。

「そっか。零菜は将来警察官かー」

「うん!」

「いつか、パパと一緒に仕事が出来るといいな」

「…はっ。夢…」

それから二十年後の現在。零菜は、父親と同じ警視庁捜査一課に配属され、二十五歳という若さで警部の座を手に入れた。

今は、母の旧姓・藍川という苗字に変え、一人暮らしをしている。

「パパ、行ってきます」