【ダンス部、オッケーくれた! みかるちゃん気をつけて!】
【ありがとうございます!】
 電車の中で息を整えながら、セラ先輩のメッセージに返信した。
 
 あとは、あたしが浅野くんを説得できれば全てがうまくいく。

「ご乗車、ありがとうございました」
 どうか浅野くんがまだ会場に入っていませんようにと祈りながら、さっと電車を降りた。
 改札を抜け、スマホで地図を見ながら会場まで走る。

「あそこだ!」
 横断歩道の先、建物の三階に青色の看板が見えた。
 試験会場の学習塾だ。
 制服を着た中学生らしき子たちが、ぞくぞくと建物へ入っていく。
 見逃さないように一人ひとりの顔を確かめながら、信号が変わるのを待っていた。
 すると、会場近くで止まった紫色の車から、見覚えのある男の子が降りてきた。

「浅野くん!」
 横断歩道の向こう側には届かない。
 浅野くんが、建物に向かって歩き出す。
「あーーさーーのーーくーーん!」
 ありったけの力を込めて叫ぶと、浅野くんがあたしに気づいて足を止めた。
「そこで待ってて!」
 叫び終わるのとほぼ同時に信号が青になり、無我夢中で横断歩道を渡る。

「よかった! 間に合った」
「あんた、どうしてここに。ライブは?」
「時間、代わってもらったの!」
「代わってもらった?」

 両手を膝に置いて息を整えながら、事情を説明した。
「あたしたちの出番は十七時半からになったよ! それなら浅野くんも出られるでしょ! ね!」
「ダメよ」

 答えたのは、浅野くんではなかった。
 紫のセダンの運転席から、女の人が降りてきた。