ハートがバキバキ鳴ってるの!

「オレときどきさ、友達だったり、デートする女の子、それからその家族とかから声かけてもらってるんだよ。『文化祭ライブ見に行くから頑張ってね』って。忙しい中今日の予定を調整してオレらの出番を見にきてくれる人たちも結構いるみたいで」

 男女問わず交流の広いセラ先輩。学校の人だけでなくその家族にも顔見知りが多いみたいだ。

「そりゃ、ジオと演奏できないのはオレだって寂しいさ。ただそれでもオレは、三年間応援し続けてくれたお客さんに気持ちよく最後の文化祭ライブを観てほしい」

 言葉の一つひとつに、バラードの歌詞のような重みが乗っていた。
「仮に予定を調整し直してもらえたとしてもよ、こんな直前でのスケジュール変更なんて、見にきてくれる人たちにあんま誠実じゃねーだろ」
「だけど、この一週間練習して感じない? ジオのギターがあってこそ私たちのアンサンブルが完成するって」
 モニ先輩が食い気味で口を開くと、セラ先輩の整った顔が少し歪んだ。

「『君の瞳はマグネット』はあのカッティングリフの切れ味があってこそだし、『涙色のプールサイド』落ちサビの切ない雰囲気は——」
「そういう細かいニュアンス的なやつはさ、あくまでオレら側のこだわりじゃん」

 さっきより少し乱暴なセラ先輩の口調を受けて、モニ先輩の眉が一瞬ピクッと動く。

「お客さんはそこまで聴いてねーよ。盛り上がりゃなんでもいいんだって」
「ふざけないで!」
 ガタンッ!
 モニ先輩が左腕で大きく弧を描くと、キーボード前の譜面台が勢い良く倒れた。
 びっしりとメモが書かれた楽譜が、床の上で力無く横たわる。

「お客さんがどうだとか。盛り上がりゃなんでもいいだとか……」
 モニ先輩の唇が、数メートル先のあたしが見てもわかるほどに震えている。
「どうせ自分がステージの上でちやほやされることしか考えてないんでしょ!」
「はあ、今なんつった……?」
 セラ先輩の顔が、怒り一色に染まった。

「ライブのクオリティーに妥協するボーカルなんて、私のバンドには要らな——」
「モニ!」
 ピストルのような怒号が誰のものか理解するのに、三秒はかかった。
 ドラムセットの奥から、厳しい瞳がモニ先輩を見据えていた。