「今更なに言い出すんだよ」
 マイクスタンドから手を離したセラ先輩が、眉をひそめる。
「だって、物足りないじゃん。やっぱ、私たちの演奏はジオのギターの音色あってこそだよ」
「そりゃオレだって、ジオと演奏したいさ」
 セラ先輩が口を尖らせた。
「だけど、あいつはあいつなりに頑張ることがあるんだろ」

 うつむいて口をもごもごさせるモニ先輩。
 部室の空気が、ピンと張り詰める。

「それにどのみち、今日は浅野くんは模擬試験を受ける予定ですので。今から彼を連れ戻すのは、現実的ではありませんね」
 テツ先輩が、困ったような顔をしながら右手でスティックを回した。
「なによ、てっちゃんったら! いつも『現実的』『現実的』ばっかり!」
「一応、方法がないことはないぜ」
 腕を組んだセラ先輩に、みんなの注目が集まる。

「今日の後夜祭さ、ダンス部のライブじゃん。部長のアカリちゃんが、『後夜祭じゃなくて日中でもよかったな』って言ってた気がする。なんか、早めに出番終わらせて楽になりたい的な」
「つまり、ダンス部に順番を代わってもらい後夜祭で演奏すれば、浅野くんも参加できるのでは、ということですね」
 なるほど!

「それだ! それでいこう!」
 キーボードの奥でモニ先輩が身を乗り出す。
「ただ、オレは正直乗り気じゃない」
「どうしてよ?」
 モニ先輩の質問を受けて、セラ先輩がいつになく複雑な顔になった。