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 浅野くんが部室に来ないまま、文化祭の当日になった。
 
 軽音部の出番は、午後の部一発目の十三時。
 朝八時に部室に集合したあたしたちは、本番に向けて最後の練習に入っていた。

 今日のあたしは、午前は文化祭が始まる十時までは部室で練習、午後はライブに出たあとクラスのお化け屋敷の受付と大忙し。
 昨日は弓野会長との約束通り実行委員会の前日準備を手伝っていた。
 今日が終わる頃にはヘトヘトになっていそうだ。

「それじゃ、『閃光夏休み』を頭からもう一回!」
 モニ先輩の指示を受けてテツ先輩がスティックを叩き、疾走感のある前奏が始まる。
 
 あたしたちのライブを締めくくる三曲目、『閃光夏休み』。 
 結局、モニ先輩に頼まれた最後のピック弾きにはチャレンジしていなくて、いつも通りの指弾きでだいたい仕上げられていた。

 気になるところといえば、最後のサビ前の間奏部分。
 もともとは浅野くんとあたしが交互にソロを弾く予定だった。
 けれど、さすがに機械の音を流すだけでは映えないから、ギターの代わりにモニ先輩がキーボードソロを弾くことになった。
 キーボードとベースで、それぞれ二回ずつのソロパート。

 滅多に目立たないベースが注目される時間。
 楽しみだけど、ドキドキだ。
 上手に弾けるかな。失敗してみじめな思いをしたくないな。

 そんなことを考えながら、一番のサビを演奏していた時だった。
 突然、キーボードの音が消えた。
 それに気づいたあたしたち三人も、演奏を中断する。

「どうしたんですか、モニ?」
 心配そうに尋ねるテツ先輩。
 
「あのさ」
 珍しく顔を曇らせたモニ先輩が、薄暗い声を漏らした。
「やっぱり私、打ち込みのギターじゃ納得できない」