ハートがバキバキ鳴ってるの!

 ※ ※ ※

「お、重いよお……」

 七月十六日、金曜日。文化祭まであと二日。
 四時間目が終わり、給食当番のあたしはスープの入った大きな温食缶を一人で運んでいた。
 ペアの子が休みで、一人でも持てる気がして給食室まで行ったけど、やっぱり重たい。
 こぼしたら大変だから、休みながら少しずつ運んだ。

「くう、頑張るぞ」
 一度下ろした取っ手を掴もうとした時。
 左後ろから手が伸びてきて、温食缶が持ち上げられた。
「あ、浅野くん!」
「誰かに手伝ってもらえなかったのか?」

 久しぶりに隣で聞こえたその声に、喜びで押しつぶされそうになる。
「えっと、一人でも大丈夫かもって思って」
「なわけねーだろ、こんな重いの」
「ありがとう……」
 一気に乱れた呼吸を整えながら、浅野くんが持ってくれた反対側を左手で掴む。

 ゆっくりと、歩幅を合わせて歩いてくれる浅野くん。 
 言葉を交わすのは四日ぶり。
 こうやって並んで歩くのは、いつぶりだろう。

 相変わらずのそっけない口調。無表情な横顔。
 それでも、浅野くんが隣にいるだけで足取りが軽くなって。
 トクントクンと波打つ心臓から、全身に幸せが行き渡った。

「調子どう?」
「へっ?」
「本番、もう明後日じゃん」

 手のひらが熱いのは、たぶんスープだけのせいじゃない。
 「元」部活仲間としての言葉でも。
 こうやってあたしのことを聞いてもらえて、たまらなくうれしかった。

「いい感じになってきたよ。三曲目のソロとか、二曲目のサビとか、不安なところはいろいろあるけど」
「あっそ」

 短い返事が、だんだん物足りなく思えてくる。
 もっと浅野くんの声が聞きたい。
 だけど。
 文化祭が終われば、あっという間に夏休み。
 浅野くんは部活を辞めたから、二学期まで会うことはない。
 一ヶ月も浅野くんの顔を見られないなんて。
 そんなの——

「ねえ、浅野くん」
「なに」
「ほんとに、部活辞めちゃうの?」

 そんなの、耐えられない。