ハートがバキバキ鳴ってるの!

 ※ ※ ※

「ねえ、みかるちゃんったら、聞いてる?」
「いてっ」

 文化祭三日前の木曜日。お昼の休み時間。
 窓際の席をぼーっと眺めていたあたしは、クラスメートのユキちゃんに軽くデコピンされて、おしゃべりの途中だったことを思い出した。

「は、ごめん。えっと、なんだっけ? 来週からやるドラマの話?」
「それはさっき終わった! 夏休みにみんなでカラオケ行こうよって件!」
「ああ、そうだった! いいね、カラオケ行ってみたい!」
「やったー! たぶんね、平日の午後になると思う! 午後なら軽音部も練習なかったよね、たしか」
「うんうん、午後はだいたい大丈夫!」
「やったー! 楽しみ! あ、そうだ!」

 ガッツポーズしたユキちゃんが、ちらりと教室左後ろの席に目をやる。
 分厚くて難しそうな本が積み上がった机。
「光橋さんのことも誘っといてよ!」
「へっ?」
「私、光橋さんと遊んでみたいんだよねー! 私から言うよりもみかるちゃんが誘ったほうが来てくれそうじゃん?」
「あの、えっと……」
「じゃ、よろしくね! 私トモくんに呼ばれてるから二組行ってくるー!」

 トモくんったらほんと最近私にべったりでさー、なんて言いながら、どこかふわふわした足取りで彼氏のトモヒロくんのところへ消えていくユキちゃん。

「はあ」
 一人になったあたしは、心に空いた穴を見つめながら頬杖をついた。

 結局、あれから舞ちゃんとは一言も会話をしていない。
 またあたしが舞ちゃんを遊びに誘う日なんて、たぶんもう来ないんだろうな。
 今はまだ同じクラスだから顔を合わせるし、用事があれば話すこともあるのかもしれないけど。
 いずれクラスが離れて、学校も別々になって、二度と会わなくなる。
 あたしたちは、『それぞれ独立して生きていく』。

「なあジオ!」
 突然窓際のほうから聞こえた二文字の単語に、ズキリと胸が痛んだ。
「この前話したサッカーのことなんだけどさ……」
 さっきあたしがユキちゃんとのおしゃべりから注意をそらしてしまった原因であるサラサラ髪の男の子が、友達と夏休みの予定について話していた。

 授業中や休み時間、つい見てしまう浅野くんの横顔。
 その耳にはもうイヤホンはつけられていなくて、一人で勉強しているか友達とおしゃべりしていることが増えていた。
 
 もともと教室ではほとんど話さないあたしたち。
 唯一の接点だった部活がなくなって、なんだか一気に浅野くんが遠い存在になった。

「うん、空いてるよ、おれ部活辞めたからさ」
 聞きたくてたまらないはずのその声は、今一番耳が耐えられない音になっていて。
 他のことを考えようと、カバンの中から国語の特別課題を一枚取り出して、右手にペンを握った。

 プリントにぎっしり詰まった説明文が、心に空いた穴を重たく塞いでくれた。