「どうして……はっ、ごめんなさい!」
 思わず前に進み出ると、スタンドに足を当てて倒してしまった。

「期末テストで、母と約束していた順位に入れなくて……」

 浅野くんの話によると、お母さんから定期テストで十位以内をキープすることを条件に音楽を許されていたとのこと。

「ですが、この前の期末テストで十一位を取ってしまって。すみません」

 それって……。
 浅野くんの言葉の意味を考えて、唇が小刻みに震える。
 テスト期間中も毎日部活に来ていた浅野くん。
 なぜかって、テスト前日に再オーディションがあったから。

「もし、あたしが一回目のオーディションでしっかり演奏していれば——」
「あんたのせいじゃない」
 浅野君が、うつむいたままあたしの言葉を(さえぎ)る。
「おれが前もって十分に勉強してなかったのが悪いんだ」

 重苦しい声色でそう言ったあと、浅野くんはモニ先輩のほうを向いて頭を下げた。
「そういうことですので、ごめんなさい。ライブはおれ抜きでお願いします。文化祭当日は、母が探してきた進学塾で模擬試験を受けることになりました。勉強に集中するためにメッセージアプリもアンインストールさせられてしまったので、連絡取りづらくなると思います。ほんとうに、すみません」
 
 背中からギターケースを下ろした浅野くんが、あっけにとられているあたしたちを通り過ぎて倉庫へ向かう。
「ギターはもう使わないので、音楽室に寄付します」

 入り口に戻った浅野くんはまたあたしたちに深々と頭を下げて、引き戸を閉めた。

 バタン、と音がして、心臓がなにかに挟まれたかのような痛みが走った。