ハートがバキバキ鳴ってるの!

「ほんと、ろくでもないやつらだね」
 コツコツ、とあたしの席に近づいてきた光橋さんが、呆れたような声を漏らす。
「ううん。あたしの手の形が変なのは事実だし」
「はあ……」
 困ったやつだ、と言いたげなため息。

「つまり瀬底さんは——」
 口調に切れ味を感じて、思わず顔を上げる。
「変わった手の形をしている子はいじめてもいいと考えてるってこと?」
「へっ? ち、違うよ」
「じゃあ、瀬底さんがいじめられるのもおかしいよね」

 今年初めて同じクラスになった光橋さん。
 あまり話したことがなくて、授業中の様子から「頭のいい人だな」って印象をなんとなく抱いていただけだった。
 実際に面と向かって言葉を交わしてみると、口調も顔立ちも髪型も、全てが大人びていて。
 クールなその(たたず)まいに、あっという間に心を惹かれていた。

「あんなしょうもないやつらの言葉なんか、気にする必要ないよ。どんなことがあっても、生まれつきの特徴を悪く言っていい理由にはならないんだから」

 光橋さんが手のひらを頭に乗せてくれると、そこからじんわりと温もりが広がって。
 久しぶりに、自分の心と体を大切にする気持ちを思い出した。

「そうだ」
 なにか思いついたという様子で、光橋さんが一度自分の席に戻る。

 再びあたしの前まで来た光橋さんの手には、一本のボールペンが握られていた。
「これさ、瀬底さんも持ってるでしょ」
「あ、うん」
 カラフルな水玉模様の四色ボールペン。
 夏休みに文房具屋さんで見つけた時に一目惚れして買ったやつだ。
「同じの持ってるなって気づいてて、前から瀬底さんに話しかけたかったんだけど、なかなかタイミングが掴めてなかったの」
「うれしい! このペン持ってる人、初めて見たかも!」
 さっきまでの黒焦げな気持ちはふっとどこかへ消えてしまって、喉元から高い声が飛び出していた。

 それからしばらく、お互いのオススメの文房具の話をして。
 やがて話題はそれぞれの普段読んでいる漫画や見ているドラマの話になり、意外と趣味が合うことがわかった。

 時間を忘れておしゃべりしているうち、気がつけば休み時間が終わりに近づていた。
「ねえ瀬底さん」
 予鈴の響く教室で、光橋さんがかすかに微笑む。
「私と、友達になってくれない?」
 
 その瞬間、あたしの人生がほんとうの意味で始まった気がした。