「浅野くん!」

 そう、今朝あたしを怒鳴りつけたクラスメートの浅野磁緒くんだ。

「人の顔見て『うげっ!』だなんて失礼だと思わないのか?」

 浅野くんは、ギターから目を離さないままぴしゃりと言った。
 それを言うなら、人の目を見ないで話すのも同じくらい失礼じゃん!
 ……と思ったけど、やっぱり口には出せない。

「あれ? もしかして知り合い?」

 モニ先輩に尋ねられて答える。

「あ、はい、同じクラスなんです」
「それはよかったですね、浅野くん。友達(●●)が入ってきてくれて」

 テツ先輩のふんわりした声が耳に入り、あたしは考えた。
 えっと、あたしと浅野くんは、「友達」なのかな?

「いや、友達じゃないっす」

 浅野くんにあっさりとそう言われて、胸がチクってする。なんだろう、告ってないのに振られた感じ。

「浅野くんは一足早く春休みに入部してから、今まで一人で寂しかったはずです。瀬底さん、仲良くしてあげてくださいね」

 浅野くんとあたしの間に流れている空気に気づいていないのか、あえて無視しているのか、テツ先輩はそんな能天気なことを言うばかり。

 それはそうと、浅野くん、空き時間はずっと音楽聴いてるなって思ったら、軽音部だったのか。春休みから入ってるってことは、結構熱心にやってるのかな。

「いやー! どうなるかと思ったけど、みかるんが入ってくれたから、なんとかバンド結成できそうね!」

 スキップするみたいに歩いて、鍵盤楽器の前に戻るモニ先輩。
 あたしの隣のセラ先輩も、ドラムセットの奥のテツ先輩も、それを受けて「うんうん」とうなずいていた。

 大変だ。なんかもう入部する雰囲気になってる。
 言わなきゃ、あたしバレー部の見学に行くんだって。

「あの、すみません、今日は——」
「よし! 一通り自己紹介終わったところだし、一回演奏聴いてもらおっか!」

 モニ先輩が掲げた拳に、あたしのお暇の言葉は再びかき消されてしまった。