ハートがバキバキ鳴ってるの!

 バタン。
 とっさに勢い良く引き戸を閉めて、すぐに後悔した。
 聞こえないふりしちゃった。
 「ありがとう」の一言さえ口にできなかった。

 浅野くんって、あんなこと言ってくれる人だったっけ。いったい、どういうつもりなの?
 ……いや、ほんとはわかってる。
 本番前に体調を崩されたら困るからああ言っただけだって。
 わかってるのに。
 あんなふうに声かけられたら、ますます目眩(めまい)が激しくなっちゃうじゃん。

 ふらつきながら廊下を歩く。
 ほんとバカみたいだ、あたし。
 自分が抜け出したくせに、一歩一歩浅野くんが遠くなっていくごとに、胸がきゅーって苦しくなる。

 あたしったら、どうしちゃったんだろう。
 浅野くんのことは、入学初日からずっと苦手だった。
 二人きりの部室が居心地悪いのは、再オーディション前のあのときの同じだ。
 だけど、その「居心地悪い」という気持ちの中身は、前とは全く違っていて。

 舞ちゃんは教えてくれなかったけど。
 やっぱり、そういうことなんだと思う。

 あたしは、浅野くんのことが、好き——。