ハートがバキバキ鳴ってるの!

 ところが、次の瞬間あたしはほっと胸をなでおろすことになる。
 一瞬振り返った男の子の顔に、全然見覚えがなかったから。

 なーんだ。ただ後ろ姿が似ているだけの別人だったみたい。
 はあ、よかった!
 
 ……ちょっと、待って。
 なにが「よかった」の?

 ——二日前の金曜日、保健室から出て行くモニ先輩が放った一言。
 あの一言を聞いてから、あたしの中に正体不明の感情が沸き起こっていた。
 いや、もしかしたら、もっと前からなのかも。
 ……いつから?
 音楽室で推しのバンドの話を聞いた時?
 廊下で橋乃口から助けてもらった時?
 それよりもっと前、西園寺先生からかばってもらった時?

 わからない、わからないけど。
 この胸のざわつきは、あたしの中にそっとしまって、なかったことにしておかなきゃいけない気がする。
 だってあの子は音楽一筋で、恋なんて興味なさそうだし。 

 そもそも、この気持ちは恋なのかな。
 それだって、まだわからないじゃない?

 あたしが今感じている胸の痛みは、恋とは違った一時的な勘違いみたいなものかも。
 うん、きっとそうだ。
 あたしのハートをバキバキ鳴らす人が、あんな無愛想なやつなわけ——

「どうしたの?」
「へっ?」
 いつのまにかトイレから戻ってきていた舞ちゃんにトントンと頭を叩かれて、我に返った。

「具合でも悪い? なんか辛そうに見えるよ」
「べ、別に! ちょっと期末テストのこと思い出してただけだよ、あはは」
「そう。ならいいけど」

 ごまかしてはみたものの、胸の中は散らかったまんまで。
 少しでも楽になれたらいいなと思って、口を開いた。
「ねえ、舞ちゃん」
「なに?」
「恋って、どんな感じ?」