セラ先輩に連れられた先は、行ったことのない教室だった。

「ここが第二音楽室。今はオレたち軽音部しか使ってないから、『部室』って呼んでるよ」
 
 なるほど、あたしは「軽音部」なる部活に連れてこられたのか。
 軽音部って、たしかバンドとかする部活のことだよね。
 あたし、音楽なんて全然やったことないんだけど……。
 せっかく連れてきてもらったから挨拶はするけど、様子を見てすぐに帰ろっと。途中からでもバレー部の見学行きたいし。

 セラ先輩が、少し古びた引き戸を開ける。
 ギイっという音につられて、あたしの心臓も(きし)んだ気がした。

 引き戸の向こうに広がったのは、思ったより小ぎれいな教室だった。
 普段使っている第一音楽室と同じような内装で、少し小さい。ミドルブラウンの床に白い天井。
 上下式黒板の片方に黄色い五線譜が書かれている。第一音楽室と違って、個性的な髪型の人たちの肖像画は壁に掛けられていない。

「おっす! ベース、連れてきたよ!」
 音楽室にいる二、三人の男女に向かって、あたしの身に覚えのないことを言うセラ先輩。
「さっすがセラ!」
 ピアノみたいな楽器の前に座っていた女子生徒が、勢いよく立ち上がる。私のところに駆け寄ってきたかと思うと、そのまま抱きしめられた。
「入部ありがとう!!」
 むぎゅー。く、苦しい。
 ちょっと、入部するなんて言ってないのに……。

 やっと体を離した先輩が、あたしを見てにっこり笑った。
「わたし、三年生の糸和(いとかず)萌仁(もに)! 軽音部の部長でキーボーディスト! 『モニ』って呼んでね!」

 くりっとした大きな目、血色の良い唇。少し茶色いロングヘアは、毛先だけくるんと軽いパーマがかかっている。身長は女子の平均よりたぶん少し大きい。
 なんかすごく「大人かわいい!」って感じの人。
 
「君、名前は?」
「あ、はい、一年一組の瀬底みかるです」
「お、じゃあ『みかるん』って呼ぶね! よろしく、みかるん!」
「は、はい、よろしくお願いします」
 セラ先輩といい、このモニ先輩って人といい、中学校の先輩ってこんなに強引で距離感近い人ばっかりなのかな。入学式からまだ三日間しか経ってないのに、不安になってきちゃった。

「こらこら、モニ。新入生をいきなり脅かしちゃダメですよ」
 穏やかな声が聞こえたほうに目をやると、ドラムセットの奥に細身の男子生徒が座っていた。