ハートがバキバキ鳴ってるの!

 ※ ※ ※

「はあ、緊張するー! ねえ浅野くん、あたし上手くできるかな?」
「知るかよ……って、おい、そっちはギターアンプだ」
「へっ? あ、ほんとだ、ごめん!」

 逃げるように舞台上を走って、ベースアンプにシールドを刺す。 
 いつもならこんな間違いしないのに。
 あたし、思ったよりも緊張しているみたいだ。

 ——今日はとうとう再オーディションの日。
 体育館に機材を運び終えたあたしたちは、二週間前のあの日と同じように舞台で楽器を構えて立っていた。

 テスト前ということで他の委員には配慮してだろうか、今日の審査員は弓野会長ただ一人だった。
 なにも言わずに腕を組んで下を見ている弓野会長。
 やっぱりあの顔を見ると不安がこみ上げてくる。
 また前みたいにダメ出しされたらどうしよう。

「ううう……」
 思わず声が漏れた時だ。
 左斜め前のセラ先輩があたしを振り返って、声を出さずに唇を動かした。
(リラックス)
 部室で見せるのと同じウインクをして、セラ先輩はまた正面に向き直る。

 来月のライブは、三年生にとっては最後の文化祭。
 今から始まるのは、その出演権がかかっているオーディション。
 そんな大勝負の場なのに、セラ先輩はいつも通り自信たっぷり(過剰?)な雰囲気を漂わせている。
 まるで、「オレが世界一のボーカリストだ」とでも言うような堂々とした背中。

 その姿を見ていると、体の奥からふつふつと勇気が湧いてきた。
 ……そうだ。
 怖がってる場合じゃない。
 あれだけ練習したんだから。
 あたしにだってできるって証明してやるんだ。
 ベースのネックを左手で握って、ゆっくり深呼吸した。

「準備がよければ、始めたまえ」
「じゃ、いくよ!」
 モニ先輩のきれいなキーボードの旋律から、曲が始まった。