ハートがバキバキ鳴ってるの!

 ※ ※ ※

「みかるーん! 元気だった?」 

 次の日、部室に入るなりむぎゅっとハグされた。
「痛いですよ、モニ先輩! あの、熱中症大丈夫ですか?」
「うわっ、さてはてっちゃん喋ったな!」
 モニ先輩が、あたしから体を離してドラムセットの奥に視線を向ける。

「反省の記録は、次世代のために残しておいてこそ光るものですよ」
 こらーっとテツ先輩に襲いかかるモニ先輩を眺めているうち、後ろでギィッと引き戸を開く音がした。
 
「やっほー! みかるちゃん! お土産の紅芋タルト、あとで取ってね!」
「こんにちは! 紅芋タルト好きなんです! ありがとうございます!!」
 日焼けしたセラ先輩は、なんというか「南国の色男」って感じ。普段とはまた違った雰囲気だけど、普段通り圧倒的にかっこいい。

 先輩たちが帰ってきて(にぎ)やかな部室。
 機材を準備しながら、あたしは思う。
 あのとき部活を辞めなくて、ほんとに良かった!

 ※ ※ ※

 それからの毎日、主に浅野くんやモニ先輩にアドバイスをもらいながら練習を続けた。

 前までは、楽譜を覚えて曲に合わせて弾けばなんとなくできた気になっていた。
 だけど、浅野くんに自分のベースの音を録音してもらった時から、それだけじゃ足りないってことがわかってきた。
 自分が全然できてないって現実を突きつけられた瞬間は、恥ずかしくて、いたたまれなくて、実際逃げ出しちゃった。
 でも、できないことに真剣に向き合うことで、少しずつ新しい景色が見えてくる。

 家に帰ってからも、テスト勉強の合間にその日習ったことを復習する時間をとった。
 なんとなく好きなフレーズを繰り返すのはやめにして、毎日その日の目標を決めて練習した。
 指先に次々と新しい豆ができてヒリヒリ痛むけど、それもきっとあたしが上達している証拠なんだよね。

 ——そして六月三十日、ついに再オーディションの日がやってきた。
 二度目となる体育館での演奏。
 今度こそ失敗はできない。
 そう思うと、緊張と不安で胸がいっぱいになる。
 だけど、二週間で自分にできることは精一杯やってきたという自信はあった。

 さあ、頑張るぞ……。
 負けるな、あたし!