「疲れたー!」
三年生が修学旅行に出発してから三日目。
浅野くんは用事があるとのことで早めに帰り、あたしは一人ポツンと部室に残って練習していた。
左の人差し指に豆ができて、弦に触れるたびにヒリヒリと痛む。
それに右腕の筋肉痛も、前とは比べ物にならないほどひどい。
浅野くんの特訓が始まるまで、ここまで痛みを感じながらベースを弾くことなんてなかった。
音楽って、バンドって、こんなに大変なものだったんだな。
手を動かすことができなくて、ベースを肩にかけたまま座り込んでいると、引き戸の軋む音がした。
入り口に視線を向けると、晴れ模様の笑顔がそこにあった。
「テツ先輩!」
「お久しぶりです、瀬底さん」
「もう帰ってきたんですね! おかえりなさい! えっと、他のお二人は?」
「みんな空港からまっすぐ家に帰りましたよ。僕はちょっと教室に忘れ物があったので、ついでに部室に寄ってみました」
テツ先輩は部室に入ると、壁に立ててあったパイプ椅子をあたしの近くに運んだ。
左手でレジ袋がかさかさと音を立てて揺れている。
「お土産はセラくんが管理してくれてるので、明日楽しみにしておいてくださいね」
「ありがとうございます! どうでしたか、沖縄?」
「すごく楽しかったですよ」
パイプ椅子に腰掛けながら穏やかに続けるテツ先輩。
「モニは二日目海ではしゃぎすぎて熱中症で倒れましたし、セラくんは現地の高校生女子と恋仲になってきましたが、無事大きな事件はなく終わりました」
その二つでもうお腹いっぱいですよ……。
「おやおや、今日は浅野くんは居ないんですか」
部室を見渡しながら尋ねてくるテツ先輩。
「あ、はい、ついさっきまでいたんですけど、用事があるみたいで先に帰りました」
「そうですか。浅野くんの分も買ってきたのですが、仕方ないですね。この中から好きなものを二本選んでいいですよ」
テツ先輩が、左手に持っていたレジ袋からペットボトルを三本取り出した。「わあ、ありがとうございます!」
お礼を言い終わらないうちに、反射的にコーラとスポーツドリンクに飛びついていた。
ゴクゴクゴクゴク……。
自分で思っていたよりも喉が渇いていたみたいだ。
気がついたら二本とも飲み干してしまっていた。
「あ、すみません、こんな無遠慮に」
お腹の気持ち悪さに耐えながら頭を下げる。
「気にしないでください。一生懸命、練習していたんですね」
テツ先輩はそう言って、あたしが手をつけなかったルイボス茶を一口飲んだ。
「どうですか? 特訓の調子は」
三年生が修学旅行に出発してから三日目。
浅野くんは用事があるとのことで早めに帰り、あたしは一人ポツンと部室に残って練習していた。
左の人差し指に豆ができて、弦に触れるたびにヒリヒリと痛む。
それに右腕の筋肉痛も、前とは比べ物にならないほどひどい。
浅野くんの特訓が始まるまで、ここまで痛みを感じながらベースを弾くことなんてなかった。
音楽って、バンドって、こんなに大変なものだったんだな。
手を動かすことができなくて、ベースを肩にかけたまま座り込んでいると、引き戸の軋む音がした。
入り口に視線を向けると、晴れ模様の笑顔がそこにあった。
「テツ先輩!」
「お久しぶりです、瀬底さん」
「もう帰ってきたんですね! おかえりなさい! えっと、他のお二人は?」
「みんな空港からまっすぐ家に帰りましたよ。僕はちょっと教室に忘れ物があったので、ついでに部室に寄ってみました」
テツ先輩は部室に入ると、壁に立ててあったパイプ椅子をあたしの近くに運んだ。
左手でレジ袋がかさかさと音を立てて揺れている。
「お土産はセラくんが管理してくれてるので、明日楽しみにしておいてくださいね」
「ありがとうございます! どうでしたか、沖縄?」
「すごく楽しかったですよ」
パイプ椅子に腰掛けながら穏やかに続けるテツ先輩。
「モニは二日目海ではしゃぎすぎて熱中症で倒れましたし、セラくんは現地の高校生女子と恋仲になってきましたが、無事大きな事件はなく終わりました」
その二つでもうお腹いっぱいですよ……。
「おやおや、今日は浅野くんは居ないんですか」
部室を見渡しながら尋ねてくるテツ先輩。
「あ、はい、ついさっきまでいたんですけど、用事があるみたいで先に帰りました」
「そうですか。浅野くんの分も買ってきたのですが、仕方ないですね。この中から好きなものを二本選んでいいですよ」
テツ先輩が、左手に持っていたレジ袋からペットボトルを三本取り出した。「わあ、ありがとうございます!」
お礼を言い終わらないうちに、反射的にコーラとスポーツドリンクに飛びついていた。
ゴクゴクゴクゴク……。
自分で思っていたよりも喉が渇いていたみたいだ。
気がついたら二本とも飲み干してしまっていた。
「あ、すみません、こんな無遠慮に」
お腹の気持ち悪さに耐えながら頭を下げる。
「気にしないでください。一生懸命、練習していたんですね」
テツ先輩はそう言って、あたしが手をつけなかったルイボス茶を一口飲んだ。
「どうですか? 特訓の調子は」