ハートがバキバキ鳴ってるの!

 小四の時あたしをいじめていた男子グループのリーダー格、橋之口(はしのぐち)がそこにいた。
 五年生から今までずっと別のクラスだったのもあって、直接顔を合わせたのは約二年ぶり。
 男子の平均くらいの身長で色黒、やや筋肉質な手足。
 全体的に「よくいる運動好きの男の子」って感じの容姿で、すごく威圧感があるわけではない。
 けれども、この男子を前にすると、昔のことを思い出して体が言うことを聞かなくなる。

「ひ、久しぶり」
「聞いたぜ、お前、軽音部入ったんだって?」
「そう、だけど……」
 たった今辞めたばかり、だなんてこいつに説明する必要はない。
「ユビナガオンナのくせに、調子乗って音楽なんかやっちゃってんの? 笑えるわ」
「ほ……っといてよ」
 蚊の鳴くような声しか出せないあたしに、次々と容赦なく言葉を突き立てる橋之口。
「お前って、不器用なくせにいろいろ手出すからすげーウケるんだよなー」
 ぐわんぐわん。
 一言一言が、呪いみたいに頭の中で響く。
 よりによって、このタイミングで鉢合わせるなんて。
 身長が縮んでいくような感覚。
 全身が成長期前に戻っていく。
 反論の言葉が出てこないのが悔しくて、スカートの裾をぎゅっと掴んだ。
 制服の感触のおかげでなんとか、今の自分の年齢を忘れずにいられた。

「なになに、まさか文化祭とか出ちゃうの?」
「出ない……」
「だろうな! お前が人前でライブなんてできるわけないんだから」

 さっきよりも強く、涙がこみ上げてくる。 
 泣いちゃダメだってば。
 せっかく、中学校に上がってからは一度も人前でべそをかかずに過ごせていたのに。
 そう思えば思うほど、じわじわ視界がにじんできて。
「おい、なんとか言えって」
 橋之口がにたにた笑いながらそう言った時だった。

「うちのベーシストになんか用?」

 涙が落ちないようにゆっくりと、後ろを振り返る。
 切れ長の目が、ギロッと橋之口をにらんでいた。