ハートがバキバキ鳴ってるの!

「自分の演奏を録音したのは初めてか?」
 うまく声を出せなくて、無言でうなずく。
「まったく。いいか、これからは最低でも一日一回は録音しながら……おい、聞いてるのか?」
 あたしの様子がおかしいことに気づいたらしく、言葉を切る浅野くん。
「ごめん……」
「あ?」

 気がついたら、目の奥が熱くなっている。
 ああやだ、あたしったら泣こうとしているみたい。
 まぶたに溜まった涙に、思い描いていた文化祭の風景が映った。

 ——夢を見ていた。
 文化祭ライブでばっちり演奏して、ステキな軽音女子として学校で有名になって、イケメンの王子様に見初められてハートがバキバキ鳴る恋をする。
 だけど、夢はやっぱり夢に過ぎなかったんだ。
 録音されたあたしの演奏が、厳しい現実を見せつけてきた。
 中間テストの成績表みたいに、容赦なく。

「……やっぱり、ベーシスト交代したほうがいいよ」
「は? なに言ってんの?」
 奇妙な虫を観察するような目であたしを見る浅野くん。
「初心者のあたしが文化祭ライブ出演を目指すなんて、最初から無茶だったんだと思う」

 できないことに無理してチャレンジするから、みんなに迷惑かけちゃった。
 これじゃ、あの頃(●●●)みたいな「みじめ女」に逆戻りだ。

「あたし、帰るね」
 ベースを倉庫に片付けて、出口に向かう。
「おい、ちょっと待てって」
「ごめん、今までありがとう」
 涙がこぼれないように祈りながら、短く別れを告げる。
 泣いちゃダメ。
 あたしは、キラキラ女子になって、ハートがバキバキ鳴る恋をするんだから。
 みじめな姿を人目に(さら)しちゃダメ。
 そのためには、向いていないことからは逃げるのが一番。
 荷物をまとめて、廊下に飛び出した。
 さようなら、浅野くん、先輩たち。