次の日、帰りのホームルームが終わるなりまっすぐ部室に行った。
 浅野くんは柳先生に話があったみたいで少し教室に残っていたから、あたしが一番乗りだ……二人中。

 がらんとした部室で機材の準備を進める。
 はあ、ほんとに今日から浅野くんと二人きりなのか。
 先輩たちのいない部室が、あたしを不安でいっぱいにした。
 だけど、そんなことばかり言ってるわけにもいかない。
 これ以上みんなに迷惑をかけないためにも頑張らなきゃ。

 チューニングを終えて、教則本に載っていた基礎フレーズを弾く。
 あれだけのことがあった翌日でも、ベースのコクのある低音が部室に響いた途端、心のスイッチが入った。
 よーし、再オーディションに向けて二週間みっちり頑張るぞー!

 スマホで音源を再生して、「君の瞳はマグネット」のベースラインを弾き始めた。
 四本の弦を指で弾くうち、不安や寂しさ、落ち込んだ気持ちがだんだん消えていく。
 あー、やっぱりベースの練習って楽しい!
 大好きな曲の一部になっている時間って、とってもゾクゾクするんだよね。

 そうして、一番のサビまで弾き終わった頃。
 ギイっと引き戸が開く音がして、黒いギターケースを背負った男の子が部室に入ってきた。

「あ、浅野く……えっ、ちょっと」
 浅野くんは、部室に入るなりこっちに向かって早足で歩いてきたかと思うと、あたしのスマホを勝手にタップして曲を止めた。
「ちょっと、今練習してるんだけど」
 浅野くんは、無造作にカバンを下ろしながらため息をつく。
「そんなんじゃあ練習にならない」