ハートがバキバキ鳴ってるの!

「度胸のある一年だな」
 浅野くんの制服に縫われている氏名のあたりを見ながら、弓野会長が評論するように言った。
「会長、物分かり悪そうに見えたんで。選挙の喩えなら、わかりやすかったでしょう?」
 冷めた口調で続ける浅野くん。
 その隣から、クスクスっとテツ先輩の笑い声が聞こえた気がする。

「そういうわけで、再オーディションよろしく」
 弓野会長と同じように腕を組んだモニ先輩が、さっきよりも落ち着いたトーンで話し始めた。
「私たちに、そしてうちのみかるんに、もう一度だけチャンスをちょうだい」
「ダメだ」
 間髪入れず拒絶する弓野会長。
 けれども、モニ先輩は食い下がった。
「実行委員、結構忙しいんだって? もう一回オーディションさせてくれるなら、私たち直前準備手伝うよ」
 モニ先輩と弓野会長が、念力で綱引きをするかのようににらみ合った。
「《《相変わらず》》しつこい人間だな。君は」
「わかってるじゃない。私、諦めの悪い女でして」

 やりとりを見ながら、あたしは体育館入り口で聞いたモニ先輩とテツ先輩の会話を思い出していた。
 モニ先輩と会長、以前になにかあったのかな?

 やがて、弓野会長は一瞬目を細めたあと、威厳たっぷりに微笑した。
「いいだろう。一度だけだ。では、六月三十日の水曜日。十七時半に体育館に来たまえ」

 今日は十四日だから、約二週間後だ。
 二週間みっちり頑張れば、あたしだって今よりぐぐっと上達できるかも。
 ……と、そこまで考えて、あることに気がついた。
 六月三十日って、期末テストの前日じゃん!

「ちょっと、私たちだってテストはあるんだよ! 他の日程ないの?」
 モニ先輩が不満をあらわにする。
「我輩の予定を合わせられるとすればその日だけだ。そもそも追加でオーディションを行うこと自体が異例なのだよ。この日付で呑めないのであれば、話はなかったことにする」
 断固とした口調で言い切る弓野会長。
「……わかった。いいよね、みんな?」
 モニ先輩の言葉に四人がうなずき、話はそこで終わりとなった。

 部室に戻るまでの間、あたしはみんなと目を合わせられなかった。