あたしが軽音部に入部してから約二ヶ月が経った六月一日。
梅雨の訪れと一緒に、教室にもイヤな時間がやってきた。
「みなさん、お待たせしました」
帰りのホームルームで、担任の柳先生が、小さな紙束を教卓の上でトントンと整えながら教室を見渡した。
ふさふさ髪で、がっしりとした背の高い男の先生。
話が面白いわけでも、めちゃめちゃイケメンってわけでもない。かといって、西園寺先生みたいな理不尽な叱り方をすることもなければ、課題を大量に出すこともない。
可もなく不可もなくって感じの先生。
だけど、残念ながらあたしの中では「ニガテな先生」の枠に入っている。
なぜなら、柳先生の担当教科は——
「今から中間テストの結果表をお渡しします」
うう……。
テストはすでに全部返ってきている。
あたしの合計点数は五教科で二百九十一点。たいていの教科で六十点以上は取れるんだけど、たった一教科が足を引っ張っている。
その教科とは……国語!
小学六年生頃から、大の苦手教科。
説明文や物語文の内容が面白くないと、勉強する気も、テスト中に問題を解く気も、全然起きないんだよね。
宿題も全部答え見たり舞ちゃんに写させてもらってばかりだったから、習った内容が全然頭に入っていなかった。
……なーんてことは、柳先生の前では決して言えない。
あーあ、なんでよりによって国語の先生が担任になっちゃったんだろう!
※ ※ ※
受け取った成績表に書いてあった順位は、「六十九位」。
学年の真ん中よりちょい(「ちょい」ってことにしとく!)下くらいだ。
どうしよう、お母さんやお父さんに見せたら怒られるかな。
うちの両親は、そこまで極端に教育熱心って感じではない。
とはいっても、なんだかんだあたしの成績のこと気にしてるし、初めて家にベースを持ち帰った時も、「ちゃんと勉強と両立させなきゃダメだよ」とお母さんに釘を刺された。
家での勉強を監視されたり、塾に入れられたりしたらイヤだな。
最悪の場合、「部活辞めなさい」とか言われたり……?
いろいろ想像して頭を抱えていたあたしは、柳先生の嬉々とした声で現実に引き戻された。
「光橋さん、学年一位おめでとうございます! これからも頑張ってください」
成績表を受け取った舞ちゃんが、涼しい顔で隣の席に戻ってきた。
すごいなあ、さすが舞ちゃん。
五教科合計はたしか四百九十一点って言ってた気がする。
学年一位ってどんな気分なのか、一度でいいから味わってみたい。
「舞ちゃんって、どうしてそんなに一生懸命勉強できるの?」
もともと秀才の舞ちゃんだけど、最近ますます勉強に身が入っているように見えるんだよね。
「ああ、実はさ——」
あたしとお揃いのクリアファイルに成績表をしまいながら、舞ちゃんが口を開いた。
梅雨の訪れと一緒に、教室にもイヤな時間がやってきた。
「みなさん、お待たせしました」
帰りのホームルームで、担任の柳先生が、小さな紙束を教卓の上でトントンと整えながら教室を見渡した。
ふさふさ髪で、がっしりとした背の高い男の先生。
話が面白いわけでも、めちゃめちゃイケメンってわけでもない。かといって、西園寺先生みたいな理不尽な叱り方をすることもなければ、課題を大量に出すこともない。
可もなく不可もなくって感じの先生。
だけど、残念ながらあたしの中では「ニガテな先生」の枠に入っている。
なぜなら、柳先生の担当教科は——
「今から中間テストの結果表をお渡しします」
うう……。
テストはすでに全部返ってきている。
あたしの合計点数は五教科で二百九十一点。たいていの教科で六十点以上は取れるんだけど、たった一教科が足を引っ張っている。
その教科とは……国語!
小学六年生頃から、大の苦手教科。
説明文や物語文の内容が面白くないと、勉強する気も、テスト中に問題を解く気も、全然起きないんだよね。
宿題も全部答え見たり舞ちゃんに写させてもらってばかりだったから、習った内容が全然頭に入っていなかった。
……なーんてことは、柳先生の前では決して言えない。
あーあ、なんでよりによって国語の先生が担任になっちゃったんだろう!
※ ※ ※
受け取った成績表に書いてあった順位は、「六十九位」。
学年の真ん中よりちょい(「ちょい」ってことにしとく!)下くらいだ。
どうしよう、お母さんやお父さんに見せたら怒られるかな。
うちの両親は、そこまで極端に教育熱心って感じではない。
とはいっても、なんだかんだあたしの成績のこと気にしてるし、初めて家にベースを持ち帰った時も、「ちゃんと勉強と両立させなきゃダメだよ」とお母さんに釘を刺された。
家での勉強を監視されたり、塾に入れられたりしたらイヤだな。
最悪の場合、「部活辞めなさい」とか言われたり……?
いろいろ想像して頭を抱えていたあたしは、柳先生の嬉々とした声で現実に引き戻された。
「光橋さん、学年一位おめでとうございます! これからも頑張ってください」
成績表を受け取った舞ちゃんが、涼しい顔で隣の席に戻ってきた。
すごいなあ、さすが舞ちゃん。
五教科合計はたしか四百九十一点って言ってた気がする。
学年一位ってどんな気分なのか、一度でいいから味わってみたい。
「舞ちゃんって、どうしてそんなに一生懸命勉強できるの?」
もともと秀才の舞ちゃんだけど、最近ますます勉強に身が入っているように見えるんだよね。
「ああ、実はさ——」
あたしとお揃いのクリアファイルに成績表をしまいながら、舞ちゃんが口を開いた。