「おや、仲良しの新入生二人が来ましたね」
 部室に入るなり、ドラムセットの奥から晴れ模様スマイルが向けられた。
「えっと……こんにちは、テツ先輩」
 あたしたち二人がどんな空気で廊下を歩いてきたのか、録画して見てもらえばよかった。

 浅野くんは「こんにちは」とそっけなく挨拶をしてから、テキパキと機材の準備に取り掛かる。
 
「お、みかるんとジオじゃん! やっほー!」
「モニ先輩、こんにちは!」
 まるでコンサート中のように真剣にキーボードを弾いていたモニ先輩が、あたしたちを見るなりぱーっと顔を輝かせた。
 モニ先輩って、やっぱ楽器弾いてる時とそれ以外の時で別人みたいだなー。

「おっす、ジオ! みかるちゃん、髪切った? いつにもましてかわいいね!」
「こんにちは、セラ先輩! 髪は切ってません」
 昨日初めて会ったばかりなのに「いつにもまして」って言われても……。
 でも、セラ先輩って圧倒的にかっこいいから、こういうのでコロっと落ちる女の子もいそうな気がする。

 壁際に荷物を降ろし、倉庫へ向かう。
 黄色いベースを手に取った瞬間、気持ちが部活モードに切り替わった。
 さあ、今日も練習しなきゃ!

 部室に戻ったあたしは、昨日の終わり頃浅野くんが教えてくれた「チューニング」に取り掛かった。
 チューニングとは、正しい音が出るように弦の張りを調節すること。

 まずは、「クリップチューナー」という、小さな画面のついたクリップ型の機械を「ヘッド」(ベースの一番上の部分のことだよ)につける。
 それから、ヘッドについている銀色の部品・「ペグ」を回して、正しい音の高さが出るように弦の張りを調整していく。

 一本ずつ、左手で押さえずに右手だけで弦を弾いてみる。このときクリップチューナーの画面上で正しい音階のアルファベットが緑色で光れば、その弦はチューニング完了!
 左手で押さえずに弾いた時の正しい音階は、太い弦から順にE・A・D・G(そういえばこれ、今日西園寺先生にテストされた音階の表記だ!)。

 チューニングを終えたあたしは、クリップチューナーの電源を切って、上から順にもう一度弦を弾いてみた。
 アンプから、重量感のある四つの音が鳴り響く。

 よしっ!
 あたし、自分でチューニングできた!
 少しだけ一人前に近づいた気がする!