年季の入ったギターケースを背負い直しながら、浅野くんがぶっきらぼうに続ける。
「あんたが来週にはベース飽きて辞めてる可能性だって、普通にあるんだし」
「そんなわけないでしょ!」
 昨日生まれて初めてベースを弾いた時の興奮をまるごと否定されたような気がして、思わず大きな声が出た。

 だけど——
「わかんねーだろ、そんなの」
 その「わかんねーだろ」からは、浅野くんがいろんなことを「わかっている」ことが伝わってきて。
「ウジャウジャいるんだよ。推しに憧れてギター買ったけど三日で辞めて部屋の飾りになりました、みたいなヤツらなんてさ」

 締め切った空間の中、ため息混じりの声が何度もあたしの耳元に届く。

「あたし、すぐに辞めたりしない。続ける気でいるよ」
 さっきよりも少ししぼんだ声で、それだけ返した。
「はいはい」
 浅野くんの相槌は「みじんも興味がありません」とでも言いたげな、無愛想なもので。
 だからますます、その次に続いた言葉があたしには理解できなかった。

「まあ、必ずしも音楽を続けたほうがいいとは限らないけどな」
「どういうこと?」
「少なくともおれは、音楽なんて好きにならなきゃ、今よりずっと楽だったのにって思ってる」

 それっきり、浅野くんは一言も喋らなかった。
 あたしも、それ以上どう返していいかわからなくて、黙ってしまった。
 体だけ横並びで、あたしたちは部室まで歩き続けた。