ハートがバキバキ鳴ってるの!

 ※ ※ ※

 その日の放課後、部室に向かうため教室を出ると、黒いギターケースを背負った男の子の後ろ姿が目に入った。
 あたしと同じ方向へ進むその子の姿を見て、はっと気づく。
 そっか、今日から浅野くんとあたしは行き先が同じなんだ。
 一緒に行くほど仲良くもないし、なんだか気まずい。
 声かけたほうがいいかな。どうしようかな。

 迷いながら少し後ろを歩いていると、あたしの気配に気がついたのか、浅野くんが振り向いた。
「うげっ」
「相変わらず失礼なやつだな」
「ご、ごめん……」
 浅野くんは、あたしにペースを合わせようとする様子なく、部室に向かってスタスタ歩き続ける。

 意を決したあたしは、足を早めて浅野くんの横に並んだ。
 だって、気づかれちゃった以上、一緒に行かないのもなんか変じゃない?
 それに、今日は浅野くんに言わなきゃいけないことがある。
「あ、あの、浅野くん」
「なに?」
「今日、ありがとね。西園寺先生から助けてくれて」
「あん?」

 浅野くんは、あたしをちらりとも見ず、四階に向かって階段を上る。
「別にあんたのためじゃないし。ロックをバカにされたからムカついただけ」
「そうかもしれないけどさ——」

 あのとき、頬杖をつきながら、一瞬だけあたしを見た浅野くん。
『その人、昨日ベース始めたばかりで、今頑張って基礎を覚えてるんです』
 あの横顔を見た時、冷え切った体の内側から、柔らかくてほくほくした気持ちが湧いてきたんだ。

「あたしのこと『頑張ってる』って言ってくれて、うれしかったよ」
「あっそ」
 相変わらずあたしにペースを合わせようとはしない浅野くんに、必死でついていく。
 微妙にずれた二人分の足音が、階段スペースで反響した。

「ま、実際のところ、まだそんなに『頑張ってる』とは言えないけどな」
「え?」