※ ※ ※
西園寺先生の喋り方って、なんだか聞いてると眠くなるんだよね。
音楽の時間は今日でまだ二回目だけど、すでにあたしの中で「イヤな授業」に仕分けされている。
それに、昨日初めてベースを弾いた興奮で夜なかなか寝付けなかったのもあって、授業を聞きながらウトウトしてきちゃった。
はあ、学校の授業なんてとっとと終えて、早く部室でベース弾きたいな。
ステキな軽音女子になって、ハートがバキバキ鳴る恋を……。
「瀬底さん」
ヌメヌメした声で名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。
おっと、大変!
どうやらあたし、いつのまにか居眠りしちゃってたみたい。
「入学して一週間目から居眠りだなんて、いただけないわね」
品定めするような目をあたしに向ける西園寺先生。
「そんなにワタクシの話がつまらないかしら」
「つ、つまらないなんて、そんなことないです! 先生の話し方好きですし! なんかこう、スヤーッってさせてくれますから……って、あ、じゃなくて……」
わわ、どうしよう!
焦って言い訳しようとしたばかりに、一言多くなってしまった。
教室のあちこちで、クスクスと笑い声が聞こえる。
なかには、「いいぞ、みかるちゃん、もっとやれ!」なんて目であたしを見ている友達も。ちょっと、あたしを鉄砲玉にしないでよ!
「ふーむ」
左の人差し指を頰にトントンと当てながら、目を細めてあたしを見る西園寺先生。
「それでは、眠気覚ましのため、瀬底さんにテストをしましょう」
テスト……?
「瀬底さん、楽器の経験は?」
「あ、えっと、昨日軽音部に入って、ベースを始めました!」
怒られている時だってのに、ベースのことを思い出してつい声が大きくなった。
「はあ、軽音ね」
吐き捨てるように言う西園寺先生。
音楽の先生なのに、軽音嫌いなのかな?
「たしか、ロックとやらをやる部活でしたっけ?」
「はい、そんな感じ……だと思います」
「それでは、ロックミュージシャンの実力を見せてもらおうじゃないの。音感テストをするわ」
音感テスト?
ちょっと、あたしまだ初心者なんだから!
そんなのできるわけないよ!
西園寺先生は、どこか楽しそうな足取りで教室角のグランドピアノの前まで歩いたかと思うと、そのまま流れるような動作で鍵盤をタッチした。
上品なピアノの音が音楽室に響く。
「今のが『C』よ。これを基準にしてあなたの相対音感を試すわ」
……えっと、「C」って?
そういえば、「ドレミファソラシド」の音階をアルファベットでも表せるって聞いたことある気がする。
だけど、「C」がなんの音なのかなんて全然わかんないよー!
あたしの頭が真っ白になる間に、西園寺先生がまた一音鳴らした。
「今の音は?」
さっきより少しだけ高かった気がする。
あたしがわかったのは、それだけ。
いつのまにか、クスクスという笑い声は教室のどこからも聞こえなくなっていた。
周りの友達が、心配そうにあたしを見ている。
ちょっと居眠りしただけで、どうしてこんなことになるの?
入学四日目で晒し者にされるなんて……。
あたしのキラキラ中学校生活、どこ行っちゃったんだろう。
早くステキな彼氏を作って舞ちゃんに追いつかないといけないのに。
こんなんじゃ、ハートがバキバキ鳴る恋なんて言ってる場合じゃないよ。
「わ、わかりません……」
両手でスカートをぐっと掴みながら、なんとかそれだけ答えた。
「あらあら。この程度の相対音感もなくて務まるのね、軽音部員って」
耳元に、冷たい声が塗りたくられる。
うつむいたまま、無抵抗でそれを受け入れた。
早く収まって。授業再開して。
ひたすらそれだけ考えながら。
「まあしょせん大衆音楽なんて——」
「D」
突然、吹き矢のような鋭い声が、音楽室に響き渡った。
西園寺先生の喋り方って、なんだか聞いてると眠くなるんだよね。
音楽の時間は今日でまだ二回目だけど、すでにあたしの中で「イヤな授業」に仕分けされている。
それに、昨日初めてベースを弾いた興奮で夜なかなか寝付けなかったのもあって、授業を聞きながらウトウトしてきちゃった。
はあ、学校の授業なんてとっとと終えて、早く部室でベース弾きたいな。
ステキな軽音女子になって、ハートがバキバキ鳴る恋を……。
「瀬底さん」
ヌメヌメした声で名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。
おっと、大変!
どうやらあたし、いつのまにか居眠りしちゃってたみたい。
「入学して一週間目から居眠りだなんて、いただけないわね」
品定めするような目をあたしに向ける西園寺先生。
「そんなにワタクシの話がつまらないかしら」
「つ、つまらないなんて、そんなことないです! 先生の話し方好きですし! なんかこう、スヤーッってさせてくれますから……って、あ、じゃなくて……」
わわ、どうしよう!
焦って言い訳しようとしたばかりに、一言多くなってしまった。
教室のあちこちで、クスクスと笑い声が聞こえる。
なかには、「いいぞ、みかるちゃん、もっとやれ!」なんて目であたしを見ている友達も。ちょっと、あたしを鉄砲玉にしないでよ!
「ふーむ」
左の人差し指を頰にトントンと当てながら、目を細めてあたしを見る西園寺先生。
「それでは、眠気覚ましのため、瀬底さんにテストをしましょう」
テスト……?
「瀬底さん、楽器の経験は?」
「あ、えっと、昨日軽音部に入って、ベースを始めました!」
怒られている時だってのに、ベースのことを思い出してつい声が大きくなった。
「はあ、軽音ね」
吐き捨てるように言う西園寺先生。
音楽の先生なのに、軽音嫌いなのかな?
「たしか、ロックとやらをやる部活でしたっけ?」
「はい、そんな感じ……だと思います」
「それでは、ロックミュージシャンの実力を見せてもらおうじゃないの。音感テストをするわ」
音感テスト?
ちょっと、あたしまだ初心者なんだから!
そんなのできるわけないよ!
西園寺先生は、どこか楽しそうな足取りで教室角のグランドピアノの前まで歩いたかと思うと、そのまま流れるような動作で鍵盤をタッチした。
上品なピアノの音が音楽室に響く。
「今のが『C』よ。これを基準にしてあなたの相対音感を試すわ」
……えっと、「C」って?
そういえば、「ドレミファソラシド」の音階をアルファベットでも表せるって聞いたことある気がする。
だけど、「C」がなんの音なのかなんて全然わかんないよー!
あたしの頭が真っ白になる間に、西園寺先生がまた一音鳴らした。
「今の音は?」
さっきより少しだけ高かった気がする。
あたしがわかったのは、それだけ。
いつのまにか、クスクスという笑い声は教室のどこからも聞こえなくなっていた。
周りの友達が、心配そうにあたしを見ている。
ちょっと居眠りしただけで、どうしてこんなことになるの?
入学四日目で晒し者にされるなんて……。
あたしのキラキラ中学校生活、どこ行っちゃったんだろう。
早くステキな彼氏を作って舞ちゃんに追いつかないといけないのに。
こんなんじゃ、ハートがバキバキ鳴る恋なんて言ってる場合じゃないよ。
「わ、わかりません……」
両手でスカートをぐっと掴みながら、なんとかそれだけ答えた。
「あらあら。この程度の相対音感もなくて務まるのね、軽音部員って」
耳元に、冷たい声が塗りたくられる。
うつむいたまま、無抵抗でそれを受け入れた。
早く収まって。授業再開して。
ひたすらそれだけ考えながら。
「まあしょせん大衆音楽なんて——」
「D」
突然、吹き矢のような鋭い声が、音楽室に響き渡った。
