※ ※ ※

 一時間目の国語の時間は、ラッキーなことに指名されることなく終わった。
 二時間目は音楽。軽音部が使っていないほうの「第一音楽室」に向かって、あたしは舞ちゃんと階段を上っていた。

「あ、そうだ! いま『恋やけ』の映画やってるよね! 今度の土曜日空いてたら見に行こうよ!」
 舞ちゃんとあたしが好きな漫画、『恋はやけどより熱かった』の実写映画が今上映されている。お知らせを見た瞬間、絶対に舞ちゃんと見たいって思ったんだ。

「あー、ごめん! タクマくんと見に行く約束しちゃっててさ。別の映画でよければ」
 がーん!
 なによタクマくんったら! あたしの舞ちゃんをよくもー!
 「タクマくん」とは、最近できたという舞ちゃんの彼氏だ。別の小学校から来た子だしクラスも遠いから、顔も苗字も全然知らない。てか、知りたくもない。
 
「じゃあさ、あたしとももっかい見よ!」
「なんでそうなるのよ」
「あたしは舞ちゃんと『恋やけ』が見たいんだもん!」
「はいはい、もう仕方ないな」

 スポーツ万能、成績優秀、美人でしっかりもの。あたしの親友にはもったいないくらい完璧女子な舞ちゃん。
 そんな舞ちゃんのことが、あたしは大好き。
 だけど——いや、だからこそ、あたしより先に彼氏を作っちゃったのは、やっぱりすごく寂しかったな。